【商いのヒント012】「良い商品」超える「社会的価値」
西日本新聞に寄稿した中小企業支援に関するコラムです。
【商いのヒント エヌビズの支援事例から⑫】
商品開発で最も重要なのは、商品やサービスの品質を妥協することなく、高めていくことです。品質をおろそかにしたまま、SNSを駆使するなど小手先のテクニックで売ろうとしても、底の浅い考えは消費者に簡単に見破られます。では、誇れる品質があったとしても、その良さを伝えさえすれば共感は得られるのでしょうか? 今回は、品質にこだわった商品開発を目指すとともに、さらに「社会に求められる付加価値」を掛け合わせることで売り上げアップを実現した事例をご紹介します。
みそ研究所「みそらぼ」(飯塚市)の安藤久代さんが相談に来たのは、2020年4月。コロナ禍の影響が目に見えて大きくなりはじめたころです。「今後の事業にどう取り組むべきか」について話を進める中で、以前から安藤さんが構想していたという「みその手作りキット」開発に踏み切るように提案しました。学校が休校になって自宅待機中の小中学生に無償配布し、「おうち時間」を少しでも豊かなものにしてもらっては-との助言も加えました。
これに目を輝かせた安藤さんは、「ピンチをチャンスに変えよう」と、さっそく商品開発に取り掛かりました。スピード感を持って取り組む一方、もちろん品質には妥協しません。軟らかく煮た国産大豆、福岡県産の生こうじを常温で日持ちできるようにするため、試作を何度も繰り返したそうです。
こうして完成した手作りキットは、学校に協力してもらい、先着100セット限定で配布。新聞やテレビで取り上げられたこともあり、大きな反響を得ることができました。実際に手にした保護者からは「子どもと一緒にみそづくりを体験することができ、食育にもつながった」など、喜びの声が聞かれたといいます。
その後、売り上げにも結びつきました。福岡市内の企業から手作りキットの大口注文があり、3000セットを無事に納品しました。安藤さんは「今後は、みそを通して朝食を取らない児童を減らす活動に貢献していきたい」と意欲的です。
品質の良さだけを発信しても、消費者の共感を得ることは難しい時代となりました。その品質や性能が、「どのような社会的な価値を生み出すか」までを語ることができなければ、消費者に受け入れられないでしょう。「良い商品」であれば市場にあふれかえっています。消費者に選ばれるためには、社会的価値のある商品をいかに創造するかが重要です。
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