士業マーケティング 講演は売上の柱になるのか
講演講師を務めたい人が多いと聞いたことがあります。実際のところはどうなのか、私自身の事例から紐解いてみます。
講演で話しているテーマ
私が講演で話しているのは大きく二つのテーマです。江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した経験談と、中小企業支援事例です。たまにまったく関係ないテーマの講演依頼をいただきますが、無理して受けるようなことはしていません。私の本業は中小企業支援で、話す仕事はあくまで副業。背伸びをするようなことはしたくないのです。
先日はある会社から講演依頼があったものの、どうやら社員教育をご希望の様子。社会保険労務士の資格を持っているとはいえ、他のどなたかが話しているような内容を私がお話しするつもりはありません。例えば以前には、「労働基準法を解説してほしい」という依頼をお断りしたことがあります。そこで、「組織がしなやかに変わり続けるべき必要性についてなら、かつての家業のストーリーと合わせてお話しできますよ」と提案したところ興味を持ってもらえました。
講演時間は1時間から2時間くらいなら調整可能としていて、この頃は1時間を持ち時間とされることがほとんど。以前に2時間半の講演をしたときは、話せるネタの全てを繰り出して何とか役割を果たすことができました。中小企業支援事例だけであればもっとお話しすることは可能。でもそれでは内容の変化に乏しいので、講演として成り立たないと思います。
去年、今年と支援機関向けに創業支援に関する講演をさせてもらいました。中小企業支援業界の生え抜きでもない私が、業界の先輩たちにお話ししなくてはいけないので責任重大です。5時間のコンテンツを用意するためにはインタビュー動画を用意したり、ワークを取り入れたりと工夫が必要でした。来年、お声が掛かることは万一にもないかと思いますが、仮に引き受けるとしたらそれなりに準備が必要な案件。そろそろ、他のどなたかに替わっていただきたいというのが率直なところです。
なぜ講演講師という業務に憧れるのか
講演の仕事をしたがる人は多いようです。なんででしょうか?私のように意図せず講演に呼ばれるようになった者からすると不思議に感じます。よほどの売れっ子でないかぎり売り上げの柱になるようなものではありませんし、日程調整が必要で時には綱渡りのような移動を強いられることもあります。講演が終わった後などぐったり疲れてしまって、懇親会などに出席する余裕はありません。私は呼んでいただけるからお話ししているだけで、あくまで副業という位置付けであることは隠さずに皆様へお伝えしています。
「人前で話している姿に憧れる」「先生と呼ばれたい」「楽に稼げそう」というのが講演講師をしたがる人々の考えなのでしょうか。人前で話すのに慣れるまではなんどもみっともない思いをしなければいけません。油断したころに限ってうまく話せなくなったり、質疑応答で質問に関係ないことを話してしまったりします。また、講演当日だけ先生と呼ばれたところで儚いもの。自分の顧客に先生と呼ばれても居心地が悪く感じてしまう私には、何がうれしいのかさっぱりわかりません。講演業務は確かに物理的な仕入れは発生しませんが、知識の仕入れは必要。人様の時間を預かるという仕事の緊張感を強いられる割に、自分が定めた満足な額の謝金をいただけることは少なくて、すぐに値引き要請ばかりされてしまいます。
多くの人が従事していない業務だから希少性があるだけで、講演講師という仕事は割に合わないというのが私の考えです。それでもお引き受けしているのは伝えたいメッセージがあるから。私の場合は、江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した経験を通して得た学びを、現役の経営者に還元したいと願っています。だからこそ、恥ずかしい思いをするのを覚悟の上で講演の仕事をお引き受けしています。
講演の仕事を得るには
士業などが講演の仕事をしようとするのであれば、大前提は独自のコンテンツを持っていることです。他の誰もが話せないネタを持っていないことには、多くの講師候補の中から選ばれることはありません。需要さえあればどんなことでもよくて、それこそ私は「江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した経験」を話し続けています。ある主催者からは「自らの経営破綻事例を率先して話そうとする講師は他にいない」と言ってもらっているので、今のところ独自のコンテンツであることは間違いなさそうです。私の場合はある役所の勉強会で話したのが、講演を始めるきっかけとなりました。思いの外に参加者の反応がよくて、「これはコンテンツになるな」と気付きました。
独自のコンテンツを持っていたとしても、講演講師ができることを知ってもらえていなければ仕事が舞い込むことはありません。ホームページに講演依頼のページを設けたり、講演講師仲介サイトに登録したりといった努力が必要です。最初は少人数の勉強会で話す機会を設けるなどして、徐々に場数を踏んでいくのがお勧め。最初から大会場での講演を依頼されるなんてことはあり得なくて、少しずつ活躍の場を拡げていくのが現実的です。
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