中小企業支援家への中学生からの質問
昨日は息子の通っている中学校で職業紹介の授業に参加してきました。「仕事のやりがい」や「働くよろこび」について対話するプログラムだそうで、40人くらいの社会人に混じって中小企業支援家がどういう仕事なのかを説明してきました。一方的に話しても面白くないので、中学生との対話形式にすることに。ありがたいことに、いくつか質問をもらったので紹介してみます。
どんなときにつらい仕事だと感じるか?
中小企業支援家というのは知恵とアイデアを提供するのが仕事です。その後に行動するかしないかは経営者の自由。もちろん何らかの問題があるので相談に来てくれているので、行動しない限り状況を打開することはできないはず。私が提供した知恵とアイデアを武器に、苦しい局面を切り開いて売上アップを実現して欲しいと考えています。
私がつらいとか残念と感じる瞬間は経営者が私の話を聞くばかりで行動してくれない時。アイデアには共感してくれているようなのに話を聞くだけで終わってしまったり、できない理由ばかりを並べ立てたり。現状を変えようと行動しない時に、社外の人間として関わる限界を感じてしまいます。
本来、人間は非常に保守的な行動を選びがちです。経営者にしても同じで、窮境に陥っていたとしても新しい選択肢を積極的に選ぶことができる人は少ないです。このままでは緩やかに衰退するだけなのに、過去の成功体験にしがみついて同じやり方を踏襲するばかり。果敢にリスクを取って一歩を踏み出そうという、具体的な行動に結びつけられない経営者が多いのです。
私のかつての家業も同じ。戦後間もない時期から1990年頃にかけて会社は大きく成長しましたが、地方中小企業にとってあまりに強烈な成功体験であったために進取の気性をいつしか失ってしまいました。これはもちろん経営者の責任です。
中小企業支援家であるならば、経営者に成果を掴み取ってもらうまで見届けたいもの。知恵やアイデアを投げっぱなしにすることなく、勇気を持って一歩を踏み出してもらうまで見守りたいと考えています。
また経営者に戻りたいと考えているのか?
「また経営者に戻りたいのか?」この質問をもらった時にはドキッとしました。中学生にはそんなことを匂わさずに仕事を紹介していたのに、彼は私の心を見透かすかのように質問してきました。もちろん答えは「いつかまた商売の現場に戻りたい」と正直に答えておきました。
中小企業支援家を名乗っている私ですが、過去の経営経験を元にアドバイスしているだけ。その経営経験も何かを成し遂げたようなキラキラとした成功体験ではありません。家業を投資ファンドに事業譲渡せざるを得なくなった経験を元に、地方中小企業の経営者に知恵とアイデアを提供しています。
行政や商工会議所などの出身では無いので、私の知恵とアイデアの源泉は商売の現場で自ら得たものです。であるならば、時代の流れとともにいつかは陳腐化してしまうわけで、そうなる前にまた商売の現場に戻りたいと考えています。中小企業支援の仕事を続けるためには、また経営経験を重ねる必要があると考えているのです。
中小企業支援家というのは一方的なアドバイスを提供するばかりではありません。経営者や幹部と対話する過程で多くのことを学ぶことができます。もしまた私が近い将来に自ら事業を営むのであれば、中小企業支援家としての経験は大いに役立ってくれると確信しています。
今までで一番うまくいった事例は何か?
ちょっと難しい質問でした。効果額の多寡なのか、経営者がどれだけ喜んでくれたからなのか。事例に優劣はつけ難いので明確に答えづらいのです。
西日本新聞などのメディアに取り上げられたり、寄稿した際に選んだ事例はどれもうまくいったものです。ただし、前提として事業者の掲載許可を得なくてはならないので限られた事例の中から選ばせてもらっています。
公表できない支援事例でも私の記憶に強く残っているものがあり、そんな事例の方が私の中では「うまくいった」と感じていたりするものです。経営者の親が涙を流して喜んでくれたり、他の支援機関では相手にされなかった方の夢を実現できたりといったことがありました。商売の支援をするからには効果額というリアルな数字の成果は重要。でも私にとっては取り組みにまつわる思い出も大事なものなのです。
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