学生から創業に関する相談を受けることがあります。自分のアイデアで創業しようとする彼ら彼女たちはまぶしいばかり。迅速に行動して夢を実現して欲しいと願います。一方で、これだけは気を付けて欲しいという点もいくつかあるので書いてみます。

財務の知識は必須

創業しようとするのであれば、最低限の財務の知識は必須です。簿記３級レベルは理解しておかないと、金融機関や税理士との会話もままならないでしょう。創業して法人を設立するのは誰にでも簡単にできるようになりましたが、だからこそ、財務についても基礎的な勉強をしておいて欲しいのです。アイデアを語るだけでいつまでも稼ぐことのできない人になってしまわないように。

私が家業で財務に関わるようになった時、上司から勧められたのが「稲盛和夫の実学」という本。黒字倒産が発生しうることなど、資金繰りの初歩からわかりやすく解説しています。家業の経理財務担当は非常に能力の高い人揃いでした。資格を特に持っているわけでもないのに独学で知識を深め、金融機関との交渉も含めて外部に頼ることなく業務を遂行してくれていました。この本を手に取る度にかつての先輩の顔を懐かしく思い出します。

稲盛和夫の実学―経営と会計
https://www.amazon.co.jp/dp/4532190061?ref_=cm_sw_r_em_ud_dp_XPYVK8W7BTDCHZZ7QAZR

ピッチに振り回されるな

ピッチとは事業内容等をプレゼンする機会のこと。いつしかプレゼンではなくピッチと呼ばれるように。言葉の響きが軽いのと同じように、ほとんどのピッチは事業の成長に直接、役立つものではありません。

数分間のプレゼンを審査員が審査して、賞金をもらえたり、何かの特典が与えられたりします。ピッチ自体が売上を増やすわけでもないのに、多くの創業者がピッチイベントの登壇に夢中になってしまうのは、「何かやっている感」を得たいからでしょうか。Tシャツにジャケットを羽織って、同じような格好をしている人が多いのも奇妙です。

ある学生が創業しているというのでお話しした時のことです。名刺もウェブサイトもしっかりと作り込まれていますが、どんな事業を営んでいるのかいまいちピンと来ません。カタカナ語ではいろいろと話してくれるのですが、ずばっと何屋なのかがわからないのです。よくよく聞き出すとウェブデザインを生業にしているそうで、さらにWordpressでの作業を外注先に繫いでいるだけの模様。まったく中身がスカスカの事業で起業家を気取っているので、やんわりと距離を取らせてもらうことにしました。

学生の創業というと、キラキラとした成功体験ばかりが目につくように思うかもしれませんが、実際の商売は泥臭いものであるはず。ドブ板営業を繰り返してファンを増やす取り組みをしたり、金融機関に事業を説明して創業融資を受けたり。Tシャツにジャケットを羽織っているだけで事業を成長の軌道に載せるなんて事はできません。地に足を着けた行動が何よりのエンジンになるはずです。

また、異業種交流会、名刺交換会などにも振り回されないようにしましょう。名刺交換しただけで人脈が培われることなんてありません。ましてや名刺交換しただけの相手に無防備に情報を提供するなんて絶対に避けるべき。学生が創業するというと様々な人が寄ってくることでしょう。事業の成長に本質的に資する人なのかどうかまずは見極めましょう。

新聞を読もう

ある学生と意見交換した時のこと。日々の情報源は何かと質問したら、「Twitterです」とのことでした。SNSからのインプットを否定するつもりはまったくありません。ただ、アルゴリズムによって、流れてくる情報が偏るリスクがあるのを認識すべき。映画に興味があるのであれば、映画に関する情報ばかりが流れてくるのがSNSです。

事業を営もうとするのであれば、専門分野については深く、専門外や興味の無い分野であっても浅く知識は得ておきたいもの。そのための媒体としてお勧めしているのは新聞です。経営者であるならば日本経済新聞は目を通しておいて間違いはありません。

毎日じっくり読もうとするといくらでも時間が掛かってしまうでしょうが、斜め読みで十分なので新聞からインプットしてみましょう。自分が思い詰めて創業しようとしている世界で、どんなことが起こっているかを垣間見ることができます。もちろん新聞だからと言ってすべて正しいことが書いてあるとも限りません。情報の取捨選択はどの媒体からインプットするにしても必要なスキルです。自分なりの基準で世界で起きていることを読み取れるように努めましょう。

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