雇用調整助成金の不正受給は逃げられない

たまには社会保険労務士的な内容を書いてみます。
労働局の求人からわかる不正受給調査への本気度
福岡労働局のホームページを見ていると
任期付職員の採用情報が掲載されていました。
https://jsite.mhlw.go.jp/fukuoka-roudoukyoku/tokushu_campaign/saiyou_00003.html
募集要項の業務内容には
(3)債権管理(不正受給等)、不正受給調査に関連する業務
という記載があります。
また同じように東京労働局も調べてみると、
助成金や雇用保険等に関連する業務に携わる任期を定めた常勤職員の募集について
というお知らせが出ています。
https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/roudoukyoku/saiyouannnai.html
業務内容は
1 業務内容
(1) 不正受給に係る事業所訪問、呼出による実態調査業務及びそれに伴う報告書等作成業務
となっていて、まず1番目に不正受給関連の業務が挙げられています。
コロナ禍の最中には企業を支援するスピード感を重視し、
性善説の立場で助成金の審査が行われていたと聞きます。
その後、世の中の平常化が見えてくると、
過去の不正受給に関しては
一定程度発生してしまっていることを前提に
事業所への訪問や実態調査が行われるのは当たり前のことです。
これから「逃げ得」を許さないための
不正受給調査がますます強化されると思われます。
ブランドを大切にしている百貨店も不正受給に手を染めていた
つい先日も百貨店での不正受給が報じられていました。
水戸京成百貨店、雇用調整助成金3億円を不正受給: 日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC31CFZ0R30C23A1000000
記事によると
取締役総務部長の指示で、2020年4月〜22年10月、出勤していた従業員の勤務データを休暇に改ざんし、申請していた
というのですから悪質です。
取締役には善管注意義務というものが課されています。
取締役という地位にある者として
一般的に要求される程度の注意を払って業務を行う義務、
を負っているわけです。
悪意を持って補助金を不正受給していたのならば、
善管注意義務に反するのは言い逃れできないでしょう。
当時の取締役会メンバーは
相当程度の善管注意義務を怠っていたと思われるので
親会社から厳しい対応を迫られそうです。
百貨店と言えば、
納入業者にとっては取引できること自体がステータスであり、
どの百貨店のどの店に出店しているか、
経営者の多くは気に掛けていたものです。
ところがこの事案のように
悪意をもって税金が原資の補助金を不正受給していたとなると、
取引そのものを控える納入業者が出始めかねません。
ただでさえ百貨店の集客モデルはとうに崩壊しています。
目先の資金繰りに目がくらんでの不正受給と思われますが、
あまりに大きな代償を支払うことになるでしょう。

水戸京成百貨店の企業行動指針のひとつには「私たちは、公正な企業倫理を重んじ、社会の一員として行動します」と書かれています。
まっとうな経営が何よりのリスク回避になる
経営者として地方中小企業の経営に携わっていると
日々、様々な出来事が発生します。
・従業員から配置に関して不満が寄せられた
・銀行がなかなか融資の稟議を通してくれない
・従業員同士のトラブルが発生した
・仕入先から取引条件の見直しを要請された
・商標の取得を先延ばしにしていたら他社に申請されていた
こうした事案が発生してしまった時に
目先のトラブル回避を優先してしまうと
結果、後で大きな後悔をすることになります。
従業員から不満が寄せられたら、
その裏には大きなトラブルの予兆が隠されているかもしれません。
銀行が稟議を通してくれない理由には
債務者区分の変動があったのかもしれません。
事の本質に向き合おうとしない限り、
表面上見えていない大きなリスクを知ることはできないのです。
私が代表取締役を務めていた家業は
1990年から売上が下がり続けていましたが、
2015年まで事業を存続させることができ、
最後には投資ファンドに相当額を出資してもらい
新たなオーナーとなってもらうことができました。
資金繰り破綻という最悪の事態に陥らずに
軟着陸を果たせた要因の一つは、
代々の経営者と従業員が
まっとうな経営
を心掛けてきたことにあったと思っています。
迷ったら正しい方を選ぶ。
ただそれだけのことです。
関連記事