地方中小企業が持続可能性を高めるための踏み台になります

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コラム

顧客名簿を生かしているか

    地方中小企業の生命線は顧客との関係性で、
    その関係性を保持するために必要なのが顧客名簿です。

    火事になったら真っ先に守るべきもの

    私がかつて代表を務めていた家業の創業は宝暦2年(1752)。この時代の江戸幕府将軍は徳川家重。現在の会計検査院に近い制度の確立、幕府各部局の予算制度導入、酒造統制の規制緩和など、独自の経済政策がおこなわれたようです。

    さてその江戸時代に火事が起きた時、商売人は何よりも先に顧客台帳を井戸に放り込んだと言われています。

    なぜ江戸時代の商売人は、火事が起きた時に現金を持って逃げ出すのではなく、商品を守ろうとするのでもなく、真っ先に顧客台帳を井戸に投げ込んだのでしょうか?

    話は変わりますが、私は初回の経営相談で「顧客名簿の有無」「顧客数」「顧客名簿をどのように活用しているか」をお尋ねするようにしています。

    残念ながら困難に直面している事業者であればあるほど、顧客名簿をそもそも整備していなかったり、あるいは顧客数が微々たるものであったり、顧客名簿を用いた情報発信をおこなっていなかったりする傾向にあるように感じます。つまり「売りっぱなし」であるわけです。

    酒店の事例

    ある酒店のオーナーが「消費増税に伴い来店客数が減少したので、ネット販売を強化したい」と相談に訪れました。

    話を聞くと、これまで長年蓄積されてきた顧客名簿が十分に活用されていないことがわかりました。そこで私はネット販売で不特定多数の見込み客を相手にするのではなく、これまで長年のつきあいのある顧客との関係性をより強固にした方が良いのではないかと考えました。

    オーナーは、以前よりSNSを通じてこまめに情報発信していました。そこで「ぜひ、ニュースレターを作って、お得意様とのコミュニケーションツールにしませんか?」と提案しました。ニュースレターとしたのは、チラシではなく店の出来事やイベントなどを伝える「お客さまへのお便り」にしたいと考えたからです。

    ニュースレター初回号の内容は、オーナーが作った手作りの商品棚や、酒の肴のレシピなど。おまけ程度に、お正月にぴったりの日本酒の販売情報を載せました。ほとんどの内容はSNSに掲載した情報を再編集したものです。

    さっそくお得意様や来店客に配布を始めたところ、ニュースレターに記載した季節商品(干支ラベルの日本酒)の売り上げが本数ベースで昨年比5倍以上に。生き生きとご商売されている様子を伝えたことで、これまでの客があらためてお店に足を運ぶきっかけとすることができました。

    顧客名簿の氏名欄と電話欄

    顧客名簿を生かせていますか?

    地方中小企業はstock型商売を目指せ

    ここで2つの商売の在り方をご提示します。

    新規客や一見客を相手にし続けるのは「flow(フロー)」型の商売。常に新しい顧客を獲得しなければならず、自転車操業状態で商売を続ける必要があります。人通りの多い駅前に店を構えるなど、立地が成否を左右する商売です。

    一方、常連客やファンなどと密な関係を長く築いていくのが「stock(ストック)」型の商売です。商品やサービスはもちろん、従業員や経営者にも共感してくれる熱心な顧客が、長い期間にわたり事業を支え続けてくれます。仮に顧客一人一人から一度に得られる利益が小さかったとしても、長いお付き合いの合計で適正な利益を得られれば良しとする商売です。

    さて、ここまでお話しすれば、火事に直面した江戸時代の商売人が顧客台帳を井戸に投げ込み、迫る火災から守ろうとした理由がおわかりいただけるでしょう。

    火事で店を失ったとしても再建すれば良いのです。現金を失ったとしてもどこかから調達すれば良いのです。商品もまた仕入れることは可能でしょう。

    しかし顧客台帳が焼失してしまえば、連絡先やこれまでの記録が失われ、顧客との関係性がほぼリセットされてしまうのです。自社の顧客台帳が失われれば、また一から蓄積していくしかありません。

    人口が減少していく時代、地方中小企業が目指すべきはストック型の商売です。製造業などBtoB企業でも同じです。日本全体のパイが小さくなる中、一人一人の顧客とより関係性を深め、長く信頼される関係を築いていくことが持続可能な商売を成立させるポイントです。

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