「知り合い」に頼って大丈夫ですか

中小企業支援に携わっていると、安直に「知り合い」に頼ろうとする経営者が多くて驚かされます。
「知り合い」を取締役にするな
中小企業支援に携わっていると、理由もなく「知り合い」を取締役にしてしまうパターンを見かけることがあります。そこに何の意味があるのかわかりませんが、誰かを引きずり込むことで経営者が安心できるのでしょうか。ある会社は顧問税理士を取締役にしていましたが、実質的な業務はゼロ。そのうちに事業そのものが消滅してしまったようで、税理士に迷惑が掛からなかったのだろうかと気になったことがあります。
また別の会社の取締役会は経営者と配偶者と「知り合い」の三人。実質的には経営者がすべてを手掛けているので、他の二人には何がどうなっているのかまったく情報共有されていないようでした。ではなぜ知り合いを取締役にしているのか。取締役会もきちんと開催していないようで、他2名の取締役からしたら大いに問題のある状況です。「名前だけの取締役」なんていう説明が何かあった時に通るはずもなく、業務執行取締役、社外取締役のいずれにしても会社法上の責任を負うことになります。
また別の会社でも知り合いを取締役にしていて、どんな仕事を担当しているのかと尋ねたら「無給なので関係ありません」と(答えにならない)答えがありました。無給だろうが有給だろうが、取締役であることに変わりはありません。取締役会に名前を連ねてもらっておくと格好がつくなどといった理由で知り合いを取締役にするのは、お互いにリスクでしかありません。無給だろうが、有給だろうが、取締役にしたのであればしっかりと責任を果たさなければいけないのです。
「知り合い」というだけで発注するな
飲食店での創業で多いのが、工事を「知り合い」に頼んで後から後悔するパターンです。知り合いだからというだけで割安な価格で工事をしてもらえるものと思い込んでいて、実際に工事が完了した後に思っていたような仕上がりでなかったり、費用が上振れしたりしてトラブルになるのです。
ある創業者がお店を開業しようと内装工事を知り合いに発注していました。その時、「知り合いだから悪いようにはならない」と言っていたのを覚えています。終わってみると費用が上振れしたようで、「こんなはずではなかった」と恨み言を連ねていました。私からしたら経営者が甘かっただけ。相見積もりも取らずに発注したら割高になるのは当たり前の話です。また知り合いだからといって、それだけでお互いに良い思いができるとは限りません。そこに悪意が存在しなかったとしても、最初のすり合わせがなされていないために行き違いが発生してしまうものなのです。
一生に何度もない取引をしようとするのに、知り合いだからというだけで相手を決めてしまう神経が私にはさっぱりわかりません。私はこの現象を「知り合いマジック」と名付けていて、創業を志す人へ警鐘を鳴らしています。

「知り合いマジック」に要注意
資金調達を「知り合い」に頼るな
ある経営者が資金調達の必要に迫られた時、学生時代からの「知り合い」だからというだけで某銀行の担当者に融資を申し込むことになりました。どう考えても相手にされることがなさそうだったので、私が他の金融機関からも話を聞くように促しても拒否。結果は、融資は得られたものの希望額に届かないわずかな金額で、しかも保証協会付きというものでした。知り合いだからと期待していた経営者は当てが外れてしまい、がっかりしていました。
知り合いだからというだけで融資の審査が甘くなるなんてことはありません。大事な事業のための資金調達を目指すのであれば、複数の選択肢を最初から検討するべきでした。結局最後に助けてくれたのは、当初は問い合わせすらしようとしなかった地元の信用金庫。対応が良かったのはもちろん、希望額を満額、融資してくれることになりました。知り合いがいなかったとしても、事業性を適切に伝えることができれば取引に応じてくれるものなのです。
経営者は楽をしようとして「知り合い」に依存してしまいがちです。しかし、果たしてその知り合いは事業のパートナーとして相応しい人なのでしょうか。知り合いといえども所詮は他人です。過大な期待を抱いたところでお互いに不幸な結果になるだけ。最初から知り合いなんて当てにせず、自分の道は自分で切り拓きましょう。
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