士業マーケティング 嫌われる勇気を持つ

甘い言葉だけを提供することが士業の仕事ではありません。時に嫌われることを覚悟してでも苦言を呈さなければならない時もあるはずです。
苦言を呈する勇気を持つ
顧問契約を長く続けてもらうことだけを考えたら、経営者が気分良くなるような内容だけを発言していれば良いのかもしれません。でも私はそうした無駄な気遣いができません。苦言を呈すべき時にははっきりと申し上げるようにしています。
ある経営者が「数字が苦手」と言ったときなどは、はっきりと代表権を返上した方が良いと伝えました。商売とはお金を増やす取り組みです。その成果を測るために数字は避けて通ることができません。「数字が苦手」などと公言してしまう経営者はその時点で失格で、商売を他の何かと勘違いしてしまっています。もちろん、代表権を返上した方が良いと言われて素直に従う経営者ではありません。私の小言をきっかけに、独学で簿記の勉強をされ、今では私の質問に先回りして数字で状況を伝えられるようになっています。
社外取締役を務めているある会社が資金繰りの危機に陥った際には、取締役会へ緊急事態モードに移行するように強く促したこともあります。普段は経営の細かいことに口を出すことはありませんが、資金繰りだけは別。お金が途切れたらそこで終了だからです。資金をつなぐための施策を検討してもらい、確実に実行するところまで見届け、資金繰りのマイナスが解消したのを確認してから会社も私も平常モードに戻りました。
経営者へ苦言を呈してそれで契約を切られたなら、そもそもその程度の関係であったということです。会社と事業を存続させるためには、時に嫌われてでも苦言を呈する勇気を持つ必要があります。
相談者を泣かせる
これまで数千件の個別相談を実施してきていますが、なかには相談者さんが涙を流してしまうこともありました。世間話をしていただけなのにほっとしたのか泣いてしまった人、話しているうちに自分のふがいなさに気付いて泣いてしまった人、私に甘さを指摘されて悔しくて泣いてしまった人。流した涙はそれだけ真剣に対話してくれている証拠だと思っています。
最近、私と話していて泣いた経営者は、前月の売上実績が予算マイナス、前年マイナスであることへの危機感が無い方でした。私からそのことを指摘されて、気付いたら目に涙が。でも言うべきことは言わなければなりません。会社と事業を存続させるには成長させ続けるしか無くて、マイナスが恒常化し、さらに経営者や従業員がそのことに慣れてしまうとたちまち存亡に関わりかねません。どれだけ成長できるかが問われているのであって、マイナスを当たり前に許容するなんてまったくあり得ない話です。
他の士業や専門家の方が事業者とどのように対しているのか私にはわかりません。私と同じように経営者と向き合っているのか、教科書に書いてあるようなことをぶつけているだけなのか。ただ、私のような姿勢で経営者と対するのはどうやら珍しいのかもしれません。その違いは、リアルな経営経験の有無であるように感じます。中小企業支援に携わる人のほとんどに経営経験がないようです。大企業のOBであったり、特定の分野の専門家であったり、金融機関出身者であったり。そうした人々が経営者と経営を語ろうとするのが私には不思議に思えます。

経営者とは真剣に向き合っています
いつでも契約を切ってくださいと言えるか
私は顧問先の経営者に対し、いつでも契約を打ち切ってくれて構わないと伝えています。当たり前と言えば当たり前なのですが、経営者に必要とされなくなったら中小企業支援家は去るのみです。もちろんそんなことは積極的に望んでいないのですが、それくらいの気構えでいるということです。
ある関与先へ出向くようになって9年目を迎えました。経営者と私はどちらかというとタイプが異なるように感じているのですが、そこを重宝にしてくれているようで長く使ってくれています。他の関与先と同じようにこちらから契約にしがみつくつもりはなくて、必要であれば苦言を呈することも多々あります。それでも経営者から毎回、契約の延長を申し出ていただけるのですからありがたいことです。
士業事務所の経営だけを考えれば、つい、「今年も契約を続けてください、よろしくお願いします」と言ってしまいそうになります。でもそんな言葉で温情を掛けられても本質的な役に立てるわけではありません。逆に、いつでも契約を打ち切ってもらって構いませんといえるくらいの気構えを持ちたいものです。
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