「視点」の引き出しを複数持つ

視点の引き出しをいくつか持っておくと社会人人生が歩みやすくなると思います。意識して異なる視点を得られるような道を歩むのも一つの考えです。私が持つ「視点」の引き出しについて書いてみます。
経営者の視点
まず、経営者の視点から物事を考えることができます。江戸時代から続く家業の代表取締役を5年間務めていたので、経営者としての思考を身につけているつもりです。例えば、責任について。経営者は事業の最終責任者ですが、時に理不尽なことにも振り回されてしまいます。それでもすべては経営者の責任なのです。私は会社の前の信号が赤に変わってしまうのも経営者の責任だと本気で思っているくらい。事業の最終責任者であるからには、何かを誰かのせいにすることは許されないのです。
ある経営者が資金繰りに窮したと言うので対策を尋ねてみたところ、「教えてもらったことが無いからわからない」と告白しました。私はぞっとしたのですが、教えられていなくとも経営判断をしなければいけないのが経営者のはず。理由にもならない理由を挙げて、現下の危機を危機として認めようとしないのであれば経営者失格です。そんな経営者は直ちに退場するべきだと思います。
先日、ある人とお話ししていた際、経営経験を経てどのように変わりましたかと尋ねられました。私は「大抵のことでは驚かなくなった」とお答えしました。江戸時代から続く家業の後始末をしてしまったことに比べたら、他のどんなことも私からしたら想定内の出来事に感じられてしまうのです。
経営者の視点を持つことが中小企業支援の仕事に役立っていることは言うまでもありません。経営経験のない自称専門家らしき人々が多い業界だからこそ、私のような視点を持つ者はそれなりに重宝されるように感じています。
中小企業支援家の視点
中小企業支援家に転身して9年目です。気付けば、家業の代表取締役を務めていた期間よりもはるかに長い時間を、中小企業支援家として過ごしています。
事業の主役は会社であり、経営者です。中小企業支援家が出しゃばる必要はありません。中小企業支援に携わる者は、経営者の手の届かないところにある成果を掴み取ってもらうための、踏み台のような存在であるべきです。
中小企業支援家の特権は多くの経営者と対話できることでしょう。社長というと万能のヒーローのように錯覚してしまう人もいるかもしれませんが、実際はそんなことはありません。緻密に経営している人もいれば、行き当たりばったりの経営判断を重ねている人もいます。何が良いとか悪いとか言うつもりはなくて、経営者の数だけ個性があるというだけの話です。
この仕事をしていると、つきつめれば行動した人が最も強いと感じます。あれこれ考えていても行動しなければ成果は生まれません。どんなに素晴らしい技術を持ち合わせていても、見込客へ届ける努力をしなければ永遠に埋もれたままです。行動を躊躇する経営者があまりに多いのが印象的で、それも私が中小企業支援家として経営者の極めて近くにいながら第三者の立場であるから感じられることなのでしょう。
ある経営者は私と対話することを動機に新規事業に取り組んでいます。彼は新規事業に取り組まなければ会社と事業を存続させられないことは理解しているものの、なかなか行動する勇気を持てずにいました。ところが私と定例の対話を重ねるようになってからは、徐々に前に進み始めています。なぜなら行動しないと私に小言をぶつけられるから。私が悪者になって新規事業が進むのであれば、それはそれで良いことなのでしょう。
会社の数だけさまざまな経営者がいらっしゃいます。彼ら彼女らから報酬をいただきながら、多くのことを学ぶことができるというのは中小企業支援家の役得です。

「視点」を複数持ちましょう
サラリーマンの視点
学校を卒業した後、家業でサラリーマンを9年半ほどしていました。幹部候補生扱いなんてされることもなく、現場で出来の悪い営業マンとして働いていました。この時の経験があるのでサラリーマンの視点を身につけているつもりです。
雇われる立場の人間は時間を切り売りして給料を得ています。やりがいや自己実現といった要素も少なからずあるのでしょうが、本質的には時間を会社に売っているわけです。よほどのことがなければ、先月と同じ給料を翌月ももらえるのがサラリーマン。経営者はそんなサラリーマンの本質を理解した上で、働いてもらうように促さなければなりません。
サラリーマン、特に地方中小企業のサラリーマンとははかない存在です。そんな立場で9年半も商売の基本を学ぶことができたのは私にとって幸せでした。最近では大学を卒業していきなりコンサルを目指す学生もいるそう。経営者の視点を持たず、サラリーマンの視点も持たないコンサルなんて、まやかしも良いところだと思ってしまいます。地に足をつけた商売をする経営者に敬意を持ち、今後も中小企業支援に携わりたいと考えています。
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