中小企業支援の限界

中小企業支援に携わるようになって9年目を迎えています。自らに経営経験があるからこそ、中小企業支援の限界を理解していつもりです。
危機対応を放置している経営者
ある会社が経営危機に陥っている(と経営者が言う)のですが、具体的な対応を取ろうとせずに時間を無駄にしています。経営者が漏らした言葉から危機が忍び寄っているのを察知できたでの問い詰めたところ、数か月後には事業の存続が危ぶまれる状況になりそうだとわかったのです。
地方中小企業がこうした状況に陥るのは珍しいことではありません。多くの企業が経営に苦労していて、日々起こる事件に頭を悩ませているのです。ただし、その後の対応で運命が分かれます。危機を危機として認めて対策するか、見て見ぬふりをして目先の仕事に没頭してしまうか。ほとんどの経営者が前者を選びますが、ごくまれに後者を選んでしまう人もいるのです。この会社の経営者がまさにそう。
経営者が現実を認めようとしないのに、社外の第三者が何を言っても無駄です。良かれと思って小言を申し上げても、「嫌なことばかり言う」と受け止めてもらえなければそこで終わり。事業の主役は事業者であって、社外の第三者は責任を負うことができません。見たくもない現実を受け入れる勇気を経営者は持ちましょう。
楽して儲かる話に飛びつく経営者
また別の会社では営業代行に飛びついて痛い目にあってしまいました。「丸投げしてくれれば売上を増やすことが可能です」という業者の言葉を鵜呑みにし、手数料だけを奪われてしまったのです。冷静に考えれば、営業代行業が百発百中で儲かるはずもない仕事であることは自明です。そんなに簡単に売上を作れるのであれば、営業代行業者が自分で事業を営めば丸儲けできるのですから。
楽して儲かる話なんてこの世に存在しません。思考を放棄してしまう経営者がこの手の話に飛びつき、悪い奴らに甘い汁を吸わせてしまうのです。
質が悪いのが、この手の楽して儲かる話(らしきもの)の情報を耳にしてしまった経営者が、地に足を着けた仕事を放棄してしまうことです。「見込客に知ってもらうために情報発信をしましょう」「従業員とビジョンを共有しましょう」などと私が提案しても、また面倒くさいことを言っているなといった顔をされてしまうのです。

危機を危機として認めましょう
補助金はあくまで補助
補助金を使って投資負担が軽くなるなら大いに活用すべきだと思います。ただし、補助金はあくまで補助。現金がどこかから湧いてくるわけではありません。この本質を見失ってしまう経営者があまりにも多いです。
一度、補助金が入金された際に勘違いしてしまうと、「さらに補助金をもらうためには何をすればよいか」と考え始めてしまいます。何かを成すための補助金制度のはずが、補助金をもらうために何かをすると主従が逆転してしまうのです。こうなってしまうと社外の第三者が何を言っても呪いを解くのは困難。「もらえるものをもらわないなんて損」とばかりに、本業そっちのけで補助金ばかりを探し続けることになります。
ある経営者は営業が苦手。見込客の元へ足を運んだり、情報発信をして知ってもらう努力をしたりすることができません。そんなときに一発逆転の策として頼ったのが補助金の申請でした。「この補助金が採択されたらすごい収入になる」などと言いだしてしまい、補助金に頭の中を乗っ取られてしまったようでした。案の定、地に足がついていない事業なので補助金にいくら応募しても採択されることがなく、気が付いたら資金が尽きそうになってしまっていました。
経営者の周りには多くの誘惑が存在します。その誘惑に振り回されずに前に進めるかどうかは経営者次第。私のような中小企業支援家が経営者の目を覚まさせようとしても限界があります。
私は経営判断を要する際には経営者に対し、「これは経営判断なのでご自分で決定してください」と促すようにしています。経営判断まで口を出すつもりはなく、それは経営者がすべき仕事だからです。経営の主役は経営者、そして中小企業支援家は経営者のための踏み台に過ぎません。経営者の手の届かないところにある成果をつかみ取るために踏み台を使ってもらい、自分の手で成果を得て欲しいのです。
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