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コラム

資金繰り対策で博打をしない

地方中小企業の経営者と対話していると、数字という現実から目を背けてしまっている人と出会うこともあります。

なぜそこで補助金を当てにするのか

ある経営者と話していた時に、資金繰りが厳しくなりそうだから某補助金を申請したと聞いて呆れてしまったことがあります。

資金が途絶えてしまったら会社は存続できません。経営者が絶対に避けなければいけないのは資金繰り破綻で、そのためには先を見通した資金計画を立てておく必要があります。この時、気を付けなければいけないのが保守的な予測を採用すること。資金が尽きたら問答無用で破綻してしまうので、あやふやな予測の数字を収入に予定してはいけないのです。

補助金なんてもっとも当てにならない収入の一つです。手を挙げたところで必ず採択される保証などなく、ましてやあくまで補助なので資金の持ち出しが発生します。資金に窮したからといって補助金を当てにするのは悪手。もっと確率の高い収入を探すか、支出を確実に減らさなければなりません。

案の定、この会社が申し込んだ補助金は採択されませんでした。メイン銀行には相手にされず、代わりの金融機関から融資を受けて一息ついたと聞いていますが、根本的な資金繰り難は解消されていないようです。補助金なんて不確かなものを当てにし資金繰りを博打にしてしまうようでは、この先も思いやられます。

感覚で資金繰りを予測するのは博打

ある顧問先では平時から資金繰り予測表を作成しています。ところが以前に一度、数か月先で資金が不足する見通しが明らかになりました。収入は保守的な数字を採用しているのでおそらく大丈夫だろうとは思いつつ、取締役会は緊急対応モードに移行。まずは自分たちの意思だけでコントロールできる支出を徹底的に減らすことに専念しました。その後は売上見通しの最新状況を更新し続け、同時に資金繰り予測表も更新。しばらく後には資金繰り予測のマイナスが無事に解消されました。

資金繰り予測表を作成する際の唯一のポイントは過大な売上予測を採用しないことです。保守的な、つまり控えめな売上予測で作成しなくてはいけません。まだ確定していない売上を採用し始めたらキリがなく、資金繰り予測の精度が鈍るだけです。こうした姿勢でいれば当初は弱含みの予測だったものが、徐々に精緻な数字に置き換わっていきます。

ある経営者は資金繰り予測表を作成せずに、頭の中だけでふんわりとした予測を立てていました。それでお金が回っていれば良いのですが、実際は資金不足に追われる日々を送っていたようです。私が資金繰り予測表を作成するように促しても、「会計ソフトからいつでも出力できる」の一点張り。自分で手を動かさないので、リアルな資金繰り予測を把握できていませんでした。

商売とは手元のお金を増やしていくある種のゲーム。手元のお金がいくらあり、今後どのように推移していくかを把握するのは、経営者の最も重要な業務の一つです。その業務を放棄して、ふんわりとしたイメージでしか把握していないというのは博打でしかありません。

カジノで使うコインやサイコロ

資金繰り対策で博打をしてはいけません

博打が許されるのは消えてなくなっても構わないお金を投じる時のみ

結婚式場アルカディア破綻 助成金不正でイメージ悪化
日本経済新聞 電子版 2025/6/17
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC039F70T00C25A6000000/

先日の日本経済新聞にこんな記事が掲載されていました。以前から資金繰りが悪化していたところ、補助金の不正受給に手を染めたのが発覚し経営破綻に至ったというもの。ここまで資金繰りをギャンブルにしてしまうなんて想像を絶する経営判断です。万が一にも経営破綻しないように尽力するのが経営者の務めのはずなのに、補助金を当てにし、さらにその補助金が不正受給だったというのですから悪手の連続です。これほどの大胆な経営判断ができるのであれば、他に知恵の使いようもあったように思えてしまいます。

家業の代表取締役を務めていた時、徐々に手元の資金が減っていく感覚は文字通り、肝が冷えるものでした。呆然自失となってしまうのか、悪手を選んでしまうのか、少しでも現実的な可能性のある選択肢を選ぶのか。もちろん私が選んだのは最後のもの。大事な事業を守るためには補助金を当てにしたり、不正に手を染めたりするような博打は許されませんでした。江戸時代から続く創業家出身の経営者というプライドをかなぐり捨てて、事業を存続させるために外部から資金を入れてもらうことを選びました。

博打が許されるのは消えてなくなっても構わないお金を投じる時のみです。経営に博打は馴染みません。不確かな未来に向かって、自ら責任を持って思考し、少しでも確率が高いと思われる経営判断をし続けるのが経営者の仕事です。


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