経営者が選んではいけない言葉

経営者が選んではいけない言葉があります。自由に発言できないなんて窮屈な立場であるわけですが、その代わりにビジョンの実現に向けて事業を推し進めていく喜び(と苦しみ)を最前列で味わうことができるのが経営者の特権です。
「~したいと思います」
先日ある経営者とお話ししていた時のことです。事業の将来について議論していると、ある事柄について「~したいと思います」と言います。その時私は、「経営者はすべてを決められる立場なのだから、やるか、やらないかの二択です」と申し上げました。揚げ足を取るようでしたが、将来をボヤっと語って欲しくなかったのです。やるのか、やらないのか、それとも百歩譲って今は決められないのか。どちらとも受け取れる表現を多用していると経営判断から逃げ続けることになります。
家業の代表取締役を務めていた時、できるだけシンプルな言葉を選ぶように心がけていました。経営者の言葉は法人としての会社が発する言葉でもあるわけで、あいまいさはできるだけ排除しなければいけないと考えました。もちろん意図してぼやかす場合もあるのですが、基本的には論旨を明快にすべきです。
中小企業支援に携わるようになり、多くの経営者と対話する仕事をしています。窮地に陥っている経営者に多いのがグダグダと話し続けるパターン。会話がまるでかみ合わないのです。自社の置かれている状況をさらけ出すのが怖いのか、無駄に言葉が多く、シンプルなやり取りが成立しません。言葉をそぎ落とすというのは勇気が必要な行為なのです。
「過去のことはわかりません」
創業経営者以外は過去の経営を引き継ぐことになります。会社を代表する立場となった時に、就任前のことについて尋ねられたらどう答えるか。私は経営者に就いた以上、過去のことについても道義的な責任を負うべきだと考えています。「就任前のことなのでわかりません」「過去の経営者がしたことは関係ありません」などと平気で述べてしまうと、経営の連続性に疑問を抱かれることになるからです。
過去の経営判断に誤りがあったとしても私は自分の不始末として受け止めるようにしていました。実際に、過去からの取引慣行が法令に合致しないとのことで公正取引委員会から勧告を受けたのですが、実際は就任前からなされていたことです。それでも今お叱りを受けなければいけないのであれば、それは現役経営者の責任です。過去の経営も含めて会社を代表するのが文字通り、代表者の役割です。
過去のことはわかりませんなどと言えるのは雇われる立場の人だけ。経営者には禁句の一つです。

経営者が選んではいけない言葉があります
「検討します」
ある経営者と新規事業について議論をしていたときに、アイデアを提供したら「検討します」と返されてしまいました。さて、この経営者さんはいつどこで経営判断するのだろうかと疑問に思ってしまいました。基本的に経営判断は即断即決。ゆっくり検討すべき事柄なんてそうそうあるものではありません。ましてや地方中小企業でそんな時間の余裕がありますか?地方中小企業の経営者は「検討します」という言葉で逃げてはいけません。その場で経営判断をし続けなければいけないのです。
家業の代表取締役に就いていた時、取引先へ伺う時は何かあったらその場で決断を下すと心に決めていました。私がその場にいる以上、「会社に持ち帰って上司と検討します」と時間稼ぎすることはできません。その場で判断しなくてはいけないのです。もちろんお相手もわきまえている方ばかりだったので、小さい事柄を私にぶつけてくるようなことはありませんでした。でもいざとなったら、その場で即断即決しなければならないという覚悟は持っていました。
ある時、主要な取引先から自社だけ取引条件を優遇してくれと要請してきました。下手だなと思ったのがその伝え方。担当者経由でなく、経営者自らが私に直接言ってきたのです。もちろんその場で却下し、そのような品のない会社とは取引をすることはできないと通告しました。数か月くらい後だったでしょうか、同じように経営者がやってきて詫びるまで取引停止を続けました。聞いてしまったからにはその場で判断するのが経営者。彼はそのことを知らなかったのでしょう。はるかに年下の経営者にはねつけられて、驚いた顔をしていたのが忘れられません。
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