危機を危機として認識できるか

深刻なトラブルが発生した時に、人によっては本能的に見て見ぬふりをしてしまうことがあります。正常化バイアスという心の動きによるものです。誰にも起きうる心理的作用ですが、経営を預かる立場の人が危機から目をそらすことは許されません。危機を危機として直視できるのも経営者に必要な資質です。
危機を適切に認識できない人もいる
ある関与先で設備関連の深刻なトラブルが発生しましたが、通常の不具合と同じように取り扱われ、もう少しで危機が見過ごされるところでした。現場から一報が入ったのに管理職は特に反応せず、私から突かれてようやく事態の深刻さを認識していました。
危機を危機として認識できるかどうかは、個人のセンスに依存するところがあるようです。生じた事案をどう捉え、どう対応するかは背負っている責任の重さに左右されるのかもしれません。管理職であったとしても組織の危機を見逃してしまう人は存在します。それが悪いということではなくて、危機を適切に認識できない人もいると知っておくことが大事です。
私は地方中小企業の経営経験があるせいか、「起きて欲しくないトラブルはいつか必ず起きる」「平穏な日々はいつまでも続かない」などと考える癖がついてしまいました。何かが起きたら「よし出番だ」と考えてしまうくらいです。我ながら何かがこじれてしまっているのは自覚していますが、経営の現場を預かるからにはこれくらい開き直らないとやってられないのです。
正常化バイアスに抗う勇気を持て
家業の代表取締役を務めていた際、品質トラブルを起こしてしまったことがあります。一報は担当の部長からで、「保健所から指摘が入ったが、深刻なことではない。対応しておきます」といった内容でした。一瞬、任せておけば大丈夫だろうと思いかけましたが何かがまずいと感じ、その後の対応は私が前面に出ることにしました。
人は誰しも危機を前にして正常化バイアスというものを抱きがちです。正常化バイアスとは事態を過小評価して心の平静を保とうとする人間の心理。冷静に考えればまずい状況にあるのに、「まだ大丈夫だろう」「もう少し悪化したら逃げることにしよう」などと現実を直視せず、いつもと変わらないから安全だと自分に言い聞かせるのです。もちろん危機は目の前に厳然として存在するわけで、正常化バイアスが何かを解決してくれることはありません。自分の思考を客観視し、正常化バイアスに陥りそうになったら自ら抜け出さねばなりません。正常化バイアスに抗う勇気を持ちましょう。
家業の品質トラブルのその後は、該当商品の全数回収に着手することにしました。そこまでしなくてもとは何人もの従業員から言われましたが、トラブルの根を断つためには必要な措置と考えて断行しました。徹底した対策に最初から着手しないと、顧客や取引先の信用を失うと考えたのです。結果はほぼ損害なしで収束させることができました。店頭や全国紙で告知したにもかかわらず回収の要請は微々たるもので、財務的なダメージもなし。当初の品質管理が万全の体制でなかったのは反省すべき点でしたが、事後の対応はほぼ満点だったのではないかと自負しています。

熱中症対策が義務化されました
熱中症対策が義務化された
今月から、熱中症の重篤化を防止するため「体制整備」「手順作成」「関係者への周知」が事業者に義務付けられました。命に係わる夏の暑さが続くので、熱中症対策はこれまでよりレベルを上げて取り組む必要があります。
ある顧問先へは数年前に空調服を導入してもらいました。倉庫作業が過酷な環境でなされていると知って、当時はまだ珍しかった空調服を紹介したのです。当初の反応は惨憺たるもので、奇異な格好をみんなで笑いあっていたくらいです。ところが今では当たり前のように使われているそう。過酷な倉庫作業の負担が少しでも軽減されるのであれば、使わない手はありません。
事業を運営していれば危機は次から次へとやってくるものです。事前に対策できるものでも危機を危機として認識できなければ、せっかくのチャンスを逃すことになります。笑われたっていいんです。勇み足でもいいんです。危機を危機として認識し、正常化バイアスに流されずに、毅然と対応することで誰かが救われます。
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