経営の答えを他人に求めない

人間とは弱いもの。経営者も同じです。経営に絶対の答えなど存在しないのに、安直にその答え(らしきもの)を探し求めてしまいます。
「わからない」と思考を止めた経営者
中小企業支援に携わっていると、安直に答えを求めようとする経営者が多いことに気づかされます。ある経営者は資金繰りが行き詰まりつつあるタイミングで思考を止めてしまいました。「わからない」と言うのです。この状況下で何をすればいいかわからないから行動できない、行動できないから資金繰り破綻もやむを得ないといった思考で経営者の責任を放棄しようとしてしまったのです。この時点で経営者失格。そもそも経営者に選ばれてはいけない人物だったのかもしれません。
経営は不確かな未来へ向かって判断することの連続です。未来がどうなるかなんて確実なところは誰にもわかりません。それでも少しでもマシな選択肢を選び続けるのが経営者に課せられた責任です。「わからない」のであれば、思考し、想像するしかないのです。頭を使うことを放棄してしまったらそこで終了。未来は訪れません。
この経営者は結局、私が提案した方策で当面の資金を確保することができました。ただし、また同じことが繰り返されないとも限りません。その時に同じように支援するべきかどうか、正直に言って悩んでいます。未来に責任を持てないような人物が経営者でいる限り、事業の成長は担保されません。市場から退場するのであれば少しでも早い方が良いのではないかとも思ってしまうのです。
私がかつての家業で代表取締役を務めていた時、過去の出来事も含めて自分の責任だと腹をくくっていました。「就任前のことだから私は知りません」「その時はサラリーマンだったので私の責任ではありません」とは言いたくなかったのです。経営者とは事業の最終責任者。未来に対してと同様、過去に対しても責任を負うべき立場だと考えています。
「次は何をすればよいですか」と尋ねる経営者
創業間もない経営者に多いのが、私に「次は何をすればよいですか」と尋ねてしまうタイプです。一人で夢を実現しようと奮闘しているせいか、私を頼ってくれるのはうれしいのですが次第に経営判断を私に求めるようになるのです。こうした時に私は、多少いじわるに思われても良いので突き放すようにしています。例えば「ここから先は経営判断です。社長のあなたが判断してください」と言うのです。
不確かな未来に向かって判断し続けるのが経営者なのに、その判断を他者に委ねようとするのは責任放棄に等しい行動です。正解がないからこそ、自ら思考して判断する必要があって、他人に答えを求めたところで成功が確約されるわけでもありません。
悩ましいのがこうした姿勢で創業間もない経営者と対話していると、おもしろがって通い続けてくれることです。いつまでも私なんか頼りにしていないで独り立ちして欲しいのに、格好の話し相手ができたと定期的に通い詰めてくれるのです。誰かに頼ることで安心感を得たいという気持ちはわかりますが、経営者は孤独なもの。思い定めたビジョンの実現に向かって、何が起こってもどんな状況であっても一人で突き進まなければいけないのです。常に誰かにすがりたいのであれば、経営者に向いていないのかもしれません。

どちらに進むかは自分で決めましょう
ChatGPT依存症の経営者
このところ増えてきたのが、何かあるとすぐにChatGPTで答え(らしきもの)を求めようとする経営者です。疑問点などがあるとすぐにパソコンやスマホに入力。AIから「正解」を得ようとするのです。でも残念なことに、AIは経営の正解なんて持ち合わせていません。過去の知見からそれらしい教科書に書いてあるような文章を生み出してくれますが、それが将来を約束してくれるものだとは限らないのです。
私も何かを検討する際にChatGPTを使いますが、あくまで思考の材料を得るため。少しできの悪い対話相手くらいのつもりでいれば、何かを生み出そうとする際の相手としては十分役に立ってくれるでしょう。
経営に勝利の方程式や魔法の杖は存在しません。同じように他者が絶対の正解を持ち合わせていることもありません。考えに考え抜いて、時に手痛い失敗をしつつ、前に進もうとあがいた経営者だけが未来を見ることができるのです。
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