取締役会で何を議論するか

取締役会で話している内容によって、経営者の資質が垣間見えてしまいます。
売上だけを話題にする取締役会
ある会社の取締役会では今後数ヶ月の売上をどう作るのかばかりを話しています。特に資金繰りが切迫しているわけではなく、キャッシュフローばかりに気を取られる状況にはありません。それでも経営者は売上のことばかりが気になる様子で、私からすると話の内容のレベルが現場責任者と変わりません。
商売というと売上を気にしてしまいがちですが、大事なのは売上から利益を得て、生み出した現金を再投資することです。従業員に還元したり、教育を充実させたり、設備に投資したり。売上だけを気にしているとこの再投資の視点がぽっかりと抜け落ちてしまいます。さらに言うと、目先の数字に囚われてしまい、大局的な観点で経営を語ることができなくなってしまいます。
私の感覚ではこの型に陥っている経営者がほとんど。「再投資」という発想が希薄なために、事業をいつまで経っても成長させることができないのです。
もちろん、経営者が現場を把握しておくことは絶対に必要です。事業は会議室でなされるものではなく、現場で動くもの。ただし、売上だけを気にしてしまうというのはまた別の話。「商売=売上を作ること」と誤って捉えてしまっている経営者に未来を語る力はありません。
10年先にどう稼ぐかを語っている取締役会
別の関与先では目先の売上の議論はほとんどありません。10年先にどのようにして会社を存続させるかを語っているのです。既存事業はいつか必ず力を失っていくもの。稼ぐ力を喪失する前に、次の事業を育てておかなければなりません。現場で日々働いている従業員にこの視点を持てというのは酷な話で、10年先に思いを馳せることができるのは取締役会メンバーに求められる資質であり、責任です。
この会社では、既存事業で売上を作ることは現場の責任者にほぼ任せています。売上が下落傾向にあるとはいえ、貴重な現金を生み出してくれる稼ぎ頭の事業であることには変わりありません。ベテランの従業員に采配を任せ、顧客に商品を納めるように奮闘しています。一方で経営者が注力しているのは新規事業。既存事業で稼いだ現金を新規事業に投資し、次の柱を打ち立てようとしています。
幸い、新規事業はどうやら筋は悪くなさそう。小さく始めた試みが思いの外、反応がよく、種火に薪を焼べるように火を大きくしようとしているところです。今のところ、新規事業の主要メンバーは経営者のみ。率直に言って、他の従業員からは白目で見られているといいます。「どうせ社長の道楽だろ」「あんなことをするなら給料を増やして欲しい」などと思われているようですが、経営者は腹を括っています。10年後の会社と事業に責任を持つ立場だからこそ、今のうちに新規事業を育てておかなければならないと強く覚悟しているのです。

取締役会メンバーは売上を気にしないくらいがちょうどよいのです
防戦一方の苦しい状況を抜け出た取締役会
またある会社はここ数年、苦しい決算が続いていました。一時は資金繰りにも窮するような時があり、私も冷や汗をかきながら経営者を応援させてもらいました。経営者と従業員が一体になり危機を克服。直近期ではひさしぶりにまとまった額の利益を計上することができました。
これまでこの会社の取締役会では未来を語る余裕などありませんでした。いかに現状を打破するかに議論の中心が置かれていて、それはそれでしようがなかったのです。ただ、最近は違います。利益をどのように分配するか、今後の設備投資の方針をどうするか、知財など無形資産でどう稼ぐかなど、視線をぐっと上げて未来を語るように変化しています。
事業を営んでいれば業績の好不調は当然に発生します。逆に多くの会社が経営に苦慮しているのが地方中小企業の実態ではないでしょうか。しかし、苦しい状況にあるからといって思考を止めてしまったり、行動を怠ったりしては現況から抜け出すことはできません。苦しいときがあるから良いときもやって来るもの。大事なのは、苦境を抜け出したときに未来を見据えようと視線を切り替えることです。
売上が良かった悪かったなどというのは、営業担当者レベルの思考です。取締役会メンバーであるならば、視線はできるだけ先へ先へと持っていき、未来の会社に貢献できるように今を働きたいものです。
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