経営者とビジョン

ビジョンを語ることができますか?経営者であるからには、事業と会社の未来を言葉で説明できなければいけません。明日のことすらどうなるかわからないのに、なぜビジョンを語らなければいけないのか。共感して、応援してもらうために必要なのです。
パワポ資料を真っ先に見せていないか
ある経営者とお話しした時のこと。事業の概要について説明してくれるというので楽しみにしていたのですが、真っ先に見せられたのが細かい字がぎっしりと詰まったパワポ資料。それだけで気を削がれてしまい、細かい説明の言葉は耳に入ってきませんでした。ではあの時私が聞きたかったものは何か。経営者のビジョンです。ビジネスモデルがどうとかこうとか言う前に、その事業で世界をどうするつもりなのかを聞きたかったのです。
パワポ資料を作って売上が増えるならこんなに簡単なことはありません。実際にはパワポ作成能力と売上の相関関係なんかなくて、それらしいスライドを用意できている人なんていくらでもいます。無駄に出来映えの良いスライドを見せられると、その資料を作成するのにどれだけの時間を掛けたのか心配になってしまうくらいです。パワポ資料はあくまで道具。その道具をどう使うかが問われているのです。
また別の経営者にある人を紹介しようとした時のことです。「専用のパワポ資料を作るのに2週間ください」と言うので驚いてしまいました。せっかく紹介してもらうのだから万全の準備をしようという考えは理解できなくはありませんが、パワポ資料を作るのに2週間ってどういう感覚をお持ちなのでしょうか。逆に紹介するのが怖くなってしまいました。初めての人と会うときにまず大事なのは自分を知ってもらうことではないでしょうか。自分を知ってもらうのには、握手と挨拶と自己紹介で十分。事業を説明するパワポ資料なんて最初から要りません。まずはA4一枚の資料を念のため用意しておくくらいで良いのです。
自分で語る
多くの経営者と対話を続けていますが、ビジョンを満足に説明してくれる方とはなかなか巡り会えません。事業を通して世界をどうしていきたいのか、考えている人は案外少ないのかもしれません。経営者が語るビジョンというのは名文でなくてもいいのです。どんなにたどたどしくても自分の言葉で説明することに意義があって、周りの人間はそれを感じ取って共感するものなのです。
ある経営者は立派なビジョンを定めましたが、それで終わり。ビジョンを掲げて先頭に立とうとしないのです。従業員や取引先、顧客に繰り返し語り続ける必要があるのですが、気付いたら昨日と同じ仕事を繰り返しているだけ。もちろん会社は変わらず、変わらないどころか売上は下落傾向。せっかく未来へ進むために必要な旗を用意したのに、経営者が用いないのであれば宝の持ち腐れです。泥臭い仕事ではありますが、ビジョンは経営者が自ら語り続けて初めて効果を生み出してくれるものなのです。
何かを語ろうとすると言葉がうまく紡ぎ出せないという人もいます。それはそれでしようがありません。経営者の思いをベースに誰かに言語化してもらうのも1つの選択肢でしょう。顧問先の経営者と対話しているとき、ビジョンやブランドのコンセプトについてなど自分なりの解釈をお伝えするときがあります。その言葉をメモしている経営者もいますが、こんな私の言葉で役立つのであれば使ってもらえればよいと思っています。言葉に魂を吹き込むことができるのは経営者だけ。私は言語化するお手伝いをしているつもりです。

ビジョンは羅針盤、コンパスのようなもの。必須装備です。
ビジョンは経営の羅針盤
ある経営者はそれらしいビジョンを掲げているものの、どこか地に足が着いていない印象です。案の定、経営方針は朝令暮改状態。方針が変わることを否定するつもりはありませんが、あまりにも行ったり来たりするので資源ばかりが浪費されて事業は停滞したままです。
本来、ビジョンは未来のあるべき姿を示すものです。ゴールの姿がわかれば、進むべき道も見えてくるというもの。不確かな未来に向かって選択し続けるのが経営であるなら、その選択の確率を少しでも高めてくれるのがビジョンなのです。であるならば、ビジョンは流行のキーワードをちりばめたり、カタカナ語を駆使する必要はないはず。
もし今私がどこかの会社の経営者に就くのであれば、真っ先に取り組むことの1つがビジョンの策定です。従来のものをそのまま使うこともあるかもしれませんが、私は私なりの未来を描くことを期待されて経営者になるはず。まずは語れる未来を持つことが最初の仕事の1つになることでしょう。
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