思考・行動しない経営者が頼るもの

中小企業支援家として多くの経営者と対話を重ねていると、思考・行動しない経営者が頼りにしがちなものが見えてきます。
補助金
誤解のないように書いておくと、使える制度や補助金は活用すれば良いと考えています。ただし、気を付けなければいけないのが補助金には依存性があるということ。ある事業を営むために活用する補助金であったはずが、いつしか「補助金をもらうために営む事業」と主客が逆転してしまうのです。
思考・行動が苦手な経営者は補助金が大好き。ただでもらえるお金と勘違いしているからです。補助金に事業の成否を委ねてしまうくらいであれば、自分で営業をした方がまだ事態をコントロールしやすいと思うのですが、一度補助金の呪縛に囚われてしまうと地道な営業の優先順位を下げてしまいます。
ある事業者は毎年のように補助金を申請していますが、不採択が続いています。そんな暇があったら見込客との関係性構築に労力を掛ければ良さそうなものですが、経営者の頭の中は常に補助金でいっぱいです。補助金に採択されることが事業の目的になってしまっているように見えるのですが、当の本人はそのことに気づいていません。
適切なタイミングで適切な補助金と巡り合うことができれば、事業を効率よく成長させることが可能になります。だから私も、これという時には事業者へ補助金を紹介することがあります。でも、思考・行動しない経営者は、自ら稼ぐよりも手っ取り早く現金を得る手段として補助金を見てしまいがち。こうした経営者と補助金の相性は最悪なのです。
魔法の杖
経営に「魔法の杖」は存在しません。これだけをすれば必ず成功するだとか、あれをすれば確実に利益を得られるなんてものはないのです。もしそんなものが存在するのであれば、誰もがトヨタやユニクロのような会社を経営していることでしょう。経営に安直な解などなく、不確実な未来に向かって少しでも確率の高そうな選択肢を選ぶのが経営者の仕事なのです。
思考・行動しない経営者は、ありもしない「魔法の杖」を探し続けています。話題の専門家がいれば列をなして教えを請おうとしますし、同じくよく売れているビジネス書を読んではふむふむと頷いているのです。そんなことで何かが成し遂げられることはありません。自分で思考し、行動する者だけが前に進むことができます。
あるプロジェクトに関わっていた際、事業相談窓口で事業者からの相談を受けるのが私の仕事でした。相談ならば良いのですが、検索すればわかるようなことを尋ねてくる事業者もいます。また自分で思考するのを放棄していて、私に経営判断を委ねようとする人も現れる始末。初めのうちはひとつひとつの相談に正面から向き合っていましたが、ある時からは「検索すればわかることなので自分で調べてください」「このあとはご自分で経営判断してください」と答えることを増やしていきました。いつまでも思考・行動できずに私に依存していると、事業者のためにならないと気付いたからです。

成功の果実は経営者自らが掴み取るものです
支援事例
講演をする際に時間調整用のコンテンツとして支援事例をお話しすることがあります。事例というのはかなり関心を引くようで、みなさん目の色を変えてくださるのがよくわかります。
ただし、事例の表面に現れたことだけを見ていると、その後の経営に必要な要素を学び取ることができません。「自分と同じ業界の事例を話して欲しい」と言われることがあるのですが、こうした質問をしてしまうということはまさに事例の表面しか理解できていない証拠。私が事例をお話しするのは、商売の成功確率を上げるための材料を得てもらいたいからで、業種などに関係なく学び取れることです。
さらに言うと、派手な成功事例は再現性が低いことがほとんど。少しテクニカルなPRマーケティングなどに取り組んで売上が激増したなどというのは、必ずしも多くの事業者に横展開できるものではありません。こうした飛び道具を駆使したような事例は、読み物としては面白いのでしょうが、多くの経営者の参考になるものではありません。
思考・行動しない経営者ほど、こうした事例に心を奪われてしまいがちなように感じています。世の中には成功事例(らしきもの)が溢れていますが、その裏には同じ数以上の失敗事例が隠されています。再現性の低い成功事例なんかよりも、踏んではいけない地雷の在りかを教えてくれる失敗事例の方が有用なはず。事例の派手さに惑わされることなく、自社の事業に生かせる要素を読み取ってもらいたいです。
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