ひと手間を掛けるのが商売

商売って、他人より手間をかけることで成功へと近づくことができると考えています。なんでも近道ばかりを探そうとする人がいますが、そうした人に商売は向いていないように思います。
新規オープン店の売上が下がった理由
ある会社が新規事業で小売を始めました。オープン当初は祝儀がわりにたくさん買ってくれるお客様もいて、予測を大幅に上回る売上を計上できるほどでした。ところが数ヶ月経って話を聞くと、経営者は暗い顔で売上が低迷してしまっていると言います。さて理由は何なのでしょうか。
まず、そもそもの商品の品質が最低限以上であることが大前提です。例えば、飲食店であれば美味しいのは当たり前。商品の品質が担保されていないのに、小手先のテクニックで売り上げを作るなんてことはできません。以前に、在庫のボロ切れのような生地をお金に替えたいと相談を持ちかけられたことがありますが、丁重にお断りしたことがあります。そんなの、商売ではありません。
さて、冒頭の経営者によくよく話を聞いてみると、典型的な「売りっぱなし状態」でした。来店したお客様へ一方的に売りつけているだけで、顧客情報を取得しておらず、ニュースレターやお礼状などをまったく発信していないことがわかったのです。オープン当初のお客様は経営者やお店を応援したいと足を運んでくれた方も多いはず。これでは顧客の足が遠のいてしまうのも当たり前です。オープン当初にいらしてくれた方の連絡先を取得できていないのは痛恨のミスですが、今からでも遅くありません。まずはいらしていただいたすべてのお客様の連絡先を伺い、お礼状を送付することから始めましょうと提案しました。
何でもLINEに頼るな
ここまで話すと経営者が「お礼はLINEで送っても良いのですか?」と尋ねてくれました。LINEでもなんでも構わないんです、顧客に気持ちを伝えることができれば。でも、小規模な地域密着型のそのお店にLINEが相応しいかは疑問です。私であれば手書きのハガキをお礼状にすると申し上げておきました。
顧客は売り手の「手抜き」を敏感に察知します。材料の質を落としたな、接客が面倒くさそうだったな、少額だったからあしらわれたな、お見送りの声がなかったな、お店に埃が落ちていたな、など。自分が客の立場になればよくわかることなのに、いざ売り手になると顧客だった時の気持ちをコロっと忘れ、売ろうとばかりしてしまいがち。顧客はその安直な気持ちをよく見抜いてしまう存在なのです。
LINEでコミュニケーションしたいならそれで結構。でもどこかで、「手書きなんて面倒くさいし、LINEならコピペできる」と考えていませんか?マスを相手に商売するのはユニクロやイオンだけ。中小企業が手掛ける商売は顧客の顔がはっきりと見えているはずです。お互いに顔が見える商売をしているのであれば、どんな手段で連絡したら顧客はうれしいでしょうか。

手書きの威力は侮れません
事業者の足腰を鍛えて、事業の持続可能性を高める
中小企業支援も商売のひとつ。私も顧問先などと向き合う日々を送っています。この商売で一番簡単なのは、経営者に「答え」を教え続けることです。例えば、「何か良い補助金はないですか?」と尋ねられたら、ささっと検索してそれらしい制度の存在を教えてあげれば良いのです。また、同じように「どの銀行に行けば融資を受けられますか?」と尋ねられたら、懇意の窓口担当者がいる金融機関に同行すれば良いのです。ただ、こうした行動は支援になりません。経営者の思考と行動を奪うだけで、後に何も残らないからです。
私は補助金について尋ねられたら、「まずは自分で調べてみてください」「補助金をもらうのに手間と時間を費やすのと、商売で同じ額を稼ぐのとではどちらが良いですか」などと答えるようにしています。また、融資について尋ねられたら、「まずは自分で銀行に行ってみてください」「その時に最低限必要な資料はこれとこれとこれ」と答えます。
こうした対応は手間が掛かりますが(さらには周りからいじわるだと誤解されることもある!)、事業者の足腰を鍛えて、事業の持続可能性を高めるためには必要なことだと思っています。なんでも検索はすればそれらしい解を得られる時代だからこそ、自分の思考の軸を持ち、一歩を踏み出す勇気が必要だと信じています。
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