あるサイトをたまに眺めています。きっかけは創業者と一緒にお話しする機会があったから。それ以来、どんな案件が掲載されているのだろうと、定期的にチェックするようになりました。

小規模M&A仲介サイトをたまに眺めている

小規模M&A仲介サイトをたまに眺めています。自分が買えるような案件がないかと気になるのと、どんな業種の売り買いが増えているのかをリサーチするためです。実際に情報開示までお願いした案件もありますが、これまで交渉まで進んだことはありません。

さて昨日、ひさしぶりにサイトを開いてみると、匿名ですが社名が想像できそうな案件が掲載されていました。某県の某事業を営む会社。経営者は⚪︎⚪︎起業家という括りで講演などにも熱心に取り組んでいる方だと思われます。

創業まもない頃に何度かお話ししたことがあり、その時の感想はいかにも地に足がついていない感じというもの。創業後はコンセプトに話題性があったので、メディアに盛んに取り上げられて舞い上がってしまっていたよう。例えば、従業員さんからある人を紹介して欲しいと依頼されて仲介したものの、その後の連絡が途絶えたこともあり、印象はよくありませんでした。

サイトに掲載されている情報から察するに、事業の実態はかなり乏しいものになっているようです。匿名とはいえ、社名が安易に想像できてしまうのもあまり良い感じがしません。経営の切羽詰まっている様子が伺えます。

ちなみに譲渡理由には「資本獲得による事業拡大」と記載されていて、条件の一つには「オーナー及び役職員の連帯保証の解除」が付されています。よくわかりませんね。こうしたときに自らを背伸びして見せようとするのは人の本能なのかもしれませんが、「資金難により廃業を検討しているため」とか正直に書いた方が買い手候補も手を挙げやすくなるのではと考えるのは私だけでしょうか。

保秘とスピード

私も江戸時代から続く家業を投資ファンドへ事業譲渡したことがあります。この時に留意したのが保秘とスピード。中途半端な形で情報が漏れてしまったら、成る話も成らなくなりますので保秘には特に気を使いました。例えば、社内のグループウェアには事業譲渡関連の情報は一切載せませんでしたし、メールアドレスも私用のものを使うようにしていたほどです。そうした努力の甲斐もあって、最後の最後の瞬間まで担当外の取締役も含めて、情報が漏れることはありませんでした。

会社や事業を第三者に託そうとなると、利害関係者のどなたかに少なからず迷惑をかけることになってしまいます。大きな目的のためにはそれも仕方がないことなので、保秘を徹底する必要が生まれます。小規模M&A仲介サイトを利用するのも良いのでしょうが、中途半端に匿名にするくらいなら債権者に筋を通して実名を出すのも選択肢でしょう。

スピードに関しては、なぜ急いだかというと資金が尽きそうであったから。資金繰り破綻だけは避けたかったので、これと決めたからには躊躇せずに取り組みました。それでも事業譲渡が完了したときの資金繰りはギリギリの状況。相手先が見つかって肩の荷が降りたなんてことはなくて、最後まで資金繰り予測表を睨む日々が続いてしまいました。会社としてあれだけ迅速に行動したつもりであっても、最後は本当にギリギリになってしまい冷や汗をかいたものです。

経営者が講演に注力し始めたら怪しい

経営者が講演活動に注力し始めると、もちろん本業が疎かになってしまいます。当たり前のことなのですが、案外、気にしていない人が多いようです。例えば(あくまで例えです、冒頭の案件とは関係ありませんよ)、女性起業家などといって講演ばかりしている経営者が創業ストーリーだけを語っているのを見ると、「事業が成長していないのだろうな」と勘繰ってしまうわけです。

これは本人だけが悪いのではなく、依頼する側にも問題があります。特に行政は常にモデルとなるような人物を求めがちなので、メディアに取り上げられた経営者を多用したがります。創業までは誰でもできるわけで、その後に何を成したかが重要です。創業どころか商売の本質から目を背けて、女性起業家らしき人々の創業ストーリーばかりを垂れ流そうとする行政は無責任です。

話は戻りますが、冒頭のサイトに掲載されている会社が私の想像する会社と一致していたら、これまで祭り上げていた人々はどうするのでしょう。おそらくあっという間に離れていくのでしょうね。

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