創業の最初の一歩で何をすべきか
創業しようというタイミングでどんなことに注力すれば良いのでしょうか。
「箱」よりも中身が重要
ある関与先の経営者が新規事業の構想について話してくれました。ごく初期の段階で、まだ何も形になっていない段階です。まず最初に検討しているのは、どのような受け皿を用意して事業化するかということで、別法人を作った方がいいのか、誰を取締役にすればよいのかなど思いを巡らせているようでした。
私が提案したのはそんなことよりも、見込客の元へ足を運んで困りごとを聞き出すこと。構想し始めている新規事業が、見込客の困りごとを解決する手段になり得るのかを検証するようにお伝えしたのです。新規事業を動かそうとする前に、自分たちの製品・サービスが誰の課題解決になるのか冷静に考えられる人は案外、少ないように思います。そもそも課題と考えているものが適切なのかどうかも怪しいものです。法人がどうとか考える前に、自分たちの製品・サービスを必要としてくれる人がいるかどうか確かなところを調べましょう。
また別の経営者は既存事業が思うようにならないので、別法人を設立しようとしています。別法人を設立したからといって、それだけで何かが変わるわけではないと思うのですが、経営者はすべてを好転させるための切り札のように勘違いしているようです。「箱」を小細工したところで、中身が伴っていなければあっという間に見透かされてしまいます。
法人を作るのは簡単なこと
法人を作るのは簡単なことです。かつてのように多額の資本金を用意する必要もありませんし、バーチャルオフィスを利用すれば事務所を借りなくても登記が可能です。そんなことよりも重要なのは事業の実態です。創業を志している人の中には法人を設立する手続きに夢中になってしまう人が一定数、存在します。
ある創業を志している人の相談を受けた時のことです。話していることが空虚で中身がゼロでした。それらしいカタカナ語は並べ立てるものの、事業性を感じさせる具体的なモノが一向に見えてこなかったのです。その後まもなく法人だけは設立。今にして思えば、法人を設立して代表者になることが目的になってしまっていたのでしょう。もちろん事業の実態が伴わないのですぐに資金繰りに行き詰まったよう。例の流行病のせいにしていましたが、そもそもの事業性がなかったので何か価値を生み出すこともなく閉業に追い込まれていました。
創業の初期にすべきは、自らが提供しようとしている製品・サービスが、誰のどんな課題を解決するのか冷静に見定めること。そもそもの事業性が本当に存在するのかを客観的に調査しなければいけません。このひと手間を省いてしまうと、せっかく生み出した製品・サービスの見込客が存在しないなんて笑うに笑えない状況になってしまいます。法人がどうとか、本店所在地がどうとか考えるのはそのあとで間に合います。
常識らしきものに振り回されてはいけない
士業の独立開業を創業と呼んで良いのなら、私も創業経験者です。家業を投資ファンドへ事業譲渡したあとに東京へ帰り、個人事業で社会保険労務士岡田事務所を開業しました。この時失敗したのが、都心部にシェアオフィスを借りてしまったこと。数㎡の執務スペースがあるだけで、事実上、住所表記のために借りたようなもの。すぐに無駄な出費であることに気づき、1年で解約してしまいました。その後は自宅兼事務所というスタイルを続けていますが、実務にまったく悪影響はありません。無駄な経費を掛けずとも、顧問先に恵まれて中小企業支援に携わることができています。
独立開業したばかりの時期にはさまざまな「常識」らしきものが気になってしまいます。事務所は借りるべき、コピー機を用意すべき、Faxはそれほど使わないかもしれないけれど用意した方がいい、プリンターはインクジェットよりもレーザーにすべき、などなど。こうした常識なんて気にする必要はなくて、最初は最小限で立ち上げれば良いのです。そもそも私なんて、社会保険労務士の看板を掲げていながら、定型業務を手掛けていないのですから。常識外れも良いところです。
創業後に大事なのは独自の立ち位置を築いて、見込客に選ばれるようにすること。常識らしきことに振り回されると、他の多くの競合に埋もれてしまうだけです。競合と同じ無色透明の存在になってしまうと、選ばれるためには価格の安さと距離の近さだけが要因になってしまいます。せっかく創業したのであれば、最初の一歩を間違えないようにし、見込客の期待に応えることに注力しましょう。
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