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コラム

営業から逃げるな

私が言う「営業」とは見込客の困りごとを収集する行為のことです。この営業から逃げている経営者が案外、多いのです。

新規事業に取り組む二人の経営者

同じタイミングで二人の経営者が新規事業に着手するのを、間近で観察したことがあります。二人の取り組み方はまったく対照的でした。

まず一人目は試作の段階から積極的に情報発信に取り組み、その発信の様子をきっかけに関心を抱いてくれた人との面談を重ねていました。中にはさっそく発注してくれる会社が現れるなど、とんとん拍子で事業が拡大していきます。そうしている間にも試作は着々と進められ、さらに新たな商談が舞い込むといった好循環に突入。常に忙しそうにしていて、会社は活気に溢れていました。その経営者はエンジニア出身で、けっして営業が得意なわけではないと言います。でも私からしたら、その経営者は開発も情報発信も営業もバランスよく注力しています。得意の開発だけに没頭することなく、見込客と対話することに何よりの喜びを感じているようです。

もう一人の経営者が取り組んでいる新規事業は情報発信に一切取り組まず、実験を進めている最中は同時に営業資料作りに専念しているだけ。完璧な営業資料が出来上がってから見込客にアプローチしようという作戦でした。その間に研究開発費用が当初予定より大幅に膨らみ、資金繰りに支障が生じそうなことが判明。経営者は資金調達にも追われることになり、とても忙しそうでした。一方で営業にはまったく手を付けることができず、もちろん受注もゼロ。実験が完了してから営業する方針だそうですが、いまだに見込客の名刺を得ることはできていません。私からしたらこの経営者は営業から逃げているだけ。あれこれ言い訳はあるようですが、見込客の顔を知らないのは致命的です。何かをこねくり回す前に、さっさと見込客の元へ足を運ぶべきでした。

「営業」とは見込客の困りごとを収集する行為

この二人の経営者の行動を眺めていると、商売に大事なのはさっさと営業することだと改めて気づかされます。私の言う「営業」とは見込客の困りごとを収集する行為のこと。何かを売りつけようとするのはその先の「販売」であって、まったくの別物です。そもそも自分たちが設定した見込客の課題が的確なものなのか、その課題を解決するための手段として、自分たちが提供しようとする製品やサービスはふさわしいものなのか。こうしたことを検証するためには、見込客と会って話すことが何よりも有効です。

営業という言葉を聞くとそれだけで逃げ腰になってしまう人々は、営業を「何かを売りつける行為」と誤解しているように感じます。営業が「相手が必要としていないものを押し付けようとする行為」であれば、誰もが従事したくなくなるのは当たり前。自分の身に置き換えれば、人から何かを押し付けられるほど嫌なことはないでしょう。そんな仕事が楽しめるわけがありません。

繰り返しますが、営業は見込客の困りごとを収集する行為です。そう正しく理解すれば、行動へのハードルはぐっと下がるはず。内にこもっていたところで何かが始まることはありません。見込客のリストを作り、自己開示をし、困りごとを打ち明けてもらえるまでに心を開かせる。この一連のプロセスが営業そのものなのです。

バインダーを持つビジネスパーソン

営業とは見込客の困りごとを収集する行為です

営業から逃げていないか

あるプロジェクトに関わっていた時、商店街事業者から相談を受ける機会がありました。「商店街にeスポーツの拠点があったら、若者が来るようになる」と言いますが、どうやら自分では何も行動するつもりはなさそう。行動するつもりのない人がなぜ相談に来たのかわかりませんでしたが、どうやら私にその事業をやらせたいような口ぶりでした。冗談ではありません。eスポーツに興味はありませんし、商店街の活性化なんて私には関係ありません。「自分で行動するつもりがないのなら、これ以上お話しすることはありませんよ」と申し上げてお引き取りいただきました。

会社の大小を問わず、経営者を名乗るのであれば「営業」は必須です。研究開発だけをしていて売上を作ることはできませんし、誰かに自分の代わりに営業させることもできません。営業代行を使って売上が伸びるのであれば、今頃すべての会社がトヨタやユニクロのようになっているはず。行動せずに成果を得ようなんて幻想もいいところです。結果を残している経営者は、いずれも見込客との対話に大きな労力を掛けています。自分が営業から逃げていないか、わが身を振り返ってみてください。


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