人前でお話しして考えたこと
昨日は今年最後の「話す仕事」の日でした。仕事と言っても、無報酬のボランティア。講演を終えてどんなことを考えているかを書いてみます。
十年一昔
江戸時代から続く家業を投資ファンドへ事業譲渡した話をしてきました。といっても、私が代表取締役として経験したことをお伝えするだけのもの。教科書に書いてあるようなことを話したり、M&Aのノウハウをお伝えしたりするものではありません。こうして苦い経験をお伝えしているのは、現役の経営者が事業を存続させるためのヒントにしてもらいたいから。私自身が他者の失敗事例から多くを学んできたからこそ、世の中に溢れているキラキラとした成功事例らしきものに惑わされずに、そして「踏んではいけない地雷」を避け、経営の確度を高めてほしいと願っています。
ただ、昨日話していて感じたのが「十年一昔」ということ。2015年3月に事業譲渡を完了したのでもうすぐ10年を迎えます。記憶を辿るようなことも増えてきましたし、ひょっとしたら記憶を良いように解釈していることもあるのかもしれません。自分が体験したことだけをお伝えしているとはいえ、そろそろ「賞味期限」は切れつつあるのかなと考えました。
今後は新規の依頼はお断りし、継続案件だけでお話しさせてもらうのも選択肢かもしれません。私の本業は中小企業支援。そしていつか商売の世界に戻ることを願っています。人前で過去をお話しすることはあくまで副業で、いつまでも続けるべきことではないのでしょう。
紹介案件は難しい
昨日は他の講師の方とのコラボ案件でした。失礼ながら通常はコラボ案件はお引き受けしていません。その方の主義主張が私と相容れないと(お互いの)信用に関わるからです。今回はいろいろあってお引き受けしましたが、やはり単独でお話しさせてもらうのが気楽で良いものです。
紹介された仕事というのは難しいもので、紹介者の顔を立てなければいけませんし、主催者にどこまで何を主張できるのかも手探り。それまで関わりのなかった会社や団体から、まったく新規の仕事としてお受けする方がはるかにやりやすいです。
幸い、昨日の案件では交通費、宿泊費、謝金を一切受け取りませんでした。受け取ってしまうと義務やしがらみが発生してしまうわけで、最初のお約束通りにボランティアで通させてもらいました。こうした紹介案件は今回限りとするつもり。念のため付け加えると何か不快なことがあったとかではまったくなくて、自由に働きたい、どなたかの事情に拘束されたくない、というそれだけのことです。
スライドを撮影する出席者
昨日気になったのが、私が投影しているパワポ資料のスライドを熱心に撮影している人が何人かいらしたこと。撮影するたびにシャッター音を響かせていて、話していて気が散る時もありました。その程度の講演スキルしかない私の能力不足でもあるのですが、率直に言って邪魔でした。話を聞いていた他の参加者がどう感じていたのかも気になるところです。
また、そもそも撮影したスライドを何に使うかというのも疑問。後から丹念に復習するのに使ってもらえるのか、単に習慣になっているだけなのか。私の感覚だと、視線を合わせて話を聞いてくれ、質疑応答でも鋭い質問をしてくれるような方でスライドを撮影するような人は今まで見かけたことはありません。
私のパワポ資料は基本的に、「積極的に撮影されたくはないけれど、撮影されても支障が無い」ように作っています。昨日、撮影しないようにお願いしたのは一枚だけ。著作権に配慮しているつもりですが、念のため声をかけさせてもらいました。
昨日の講演では使いませんでしたが、中小企業支援事例を紹介するスライドは一律に撮影を遠慮してもらっています。匿名化して会社名等が特定されないようにしているものの、事例が一人歩きするのを避けたいので撮影禁止を貫いています。事例と聞くとそれだけで「魔法の杖」のように表面上の事象をコピーしたがる人がいるので困っています。見てほしいのはそこではなくて、より根源的な部分なのです。経営者が新規事業にどのように向き合ったかだとか、どのような議論を経て新しい取り組みを始めたのかとか。「SNSを使ったから売上が増えた」「アイデア商品がヒットした」といった点だけに目を奪われると、木を見て森を見ずになりかねません。
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