なんでも「型」にはめようとすると思考停止してしまう
何かを型にはめようとばかりしていると思考できなくなっていきます。型に逃げるのは楽ではあるのですが、徐々に思考する力を奪っていくので要注意です。
なんでも型にはめたがる人々
中小企業支援に携わっていると行政関係者などから質問を受けることがあるのですが、率直に言って「型にはめたがる」質問が多くてうんざりしています。「今どのような業種が稼いでいますか」とか、「関与先に共通する課題はなんですか」といった感じ。
特定の業界に追い風が吹いていてもすべての会社が好調なんてことはありませんし、不況にあえぐ業界でもうまく利益を生み出している会社も存在します。また、企業が抱える課題はさまざまで「人手不足が課題」などと乱暴に一括りにできるものはありません。中小企業の実態を知らない人や経営に携わったことのない人に限って、型にはめて思考を単純化させようとするのは困ったものです。
企業は法律上の人格を持たされているから「法人」なわけで、その人格は各社各様です。人間と同じ。そう考えれば安直に型にはめる行為がいかに乱暴で無益なものかわかるでしょう。
私は何かを型にはめようとしたり一般化しようとしたりするような質問を受けると「各社各様で儲けている会社もありますが苦労されている会社もあります」「ある会社の経営課題はA、ある会社はB。各社それぞれに悩みがあるようです」などと答えることにしています。質問者が求めている答えではないことは百も承知ですが、それが現実なのです。
ちなみにこうした質問をしてくるのは議員に多い印象です。地方自治が劣化していると耳にすることがありますが、たしかにレベルの低い人がかなりの割合で混じっているように感じています。
講演のあとの質疑応答
以前に講演をした際、質問者の考える型に無理にはめようとする質問を受けて辟易した経験があります。江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した経験をお話ししたのですが、事業譲渡=失敗としか捉えられない方だったようで、私の経験談がにわかに信じられなかったようです。「老舗の3代目の経営失敗事例」という型にはめたかったようでうんざりしてしまいました。私は自分が体験した事例をお話ししているだけで、それ以上でもそれ以下でもありません。どう解釈するかは聞き手の自由ですが、自分が思い込んでいる型を他人にも強いるような質問は生産的ではありません。
私の講演の質疑応答はたいてい質問が15分くらい続きます。普段は議論が深まる過程を楽しめるのですが、誘導尋問のように悪意を持って自説を押し付けようとする人には困ってしまいます。いわば質問のための質問をされるわけで、その他の参加者にとっても迷惑な話です。そうした人物には関わらないのが一番。自説を披露したいのであれば、ご自分が演題に立てば良いのです。
中小企業支援には方程式や「魔法の杖」は存在しない
なんでも物事を型にはめてしまうのは、思考を省略することに繋がります。「AなんだからB」と半ば自動で結論らしきものを導けてしまうから楽なのです。日頃から思考の鍛錬を積んでいないと無意識のうちに「型」に頼ってしまうのでしょう。
中小企業支援は方程式や「魔法の杖」が存在しない世界です。そんなものがあったらすべての会社がトヨタやユニクロになれるはず。教科書に書いてあるようなことばかりをそれらしく語る銀行員やコンサルが関わったからといって、必ずしも成長が約束されるわけではないのです。
では私のような中小企業支援家がなんのために存在しているかというと、経営者の「踏み台」になるため。私が提供する知恵とアイデアを用いて、それまで手が届かないところにあった成果を掴み取って欲しいのです。もちろん知恵やアイデアをそもそも使うかどうかを決めるのは経営者自身。私が何かを押し付けることはありません。不確かな未来に向かって少しでも確度の高い選択肢を選び続けるのが経営判断で、私はその材料を提供するのが仕事です。
型にはめるようなことをして思考から逃げていては誰かに食い物にされるだけです。つらくてもしんどくても考え抜くことが大事で、そうして思考の鍛錬を積めば身を守る武器を手にすることができると信じています。
思考から逃げないこと。それが経営の第一歩です。
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