地方中小企業の経営者に聞いてもらいたい落語の演目
このところ落語ばかり聴いています。専門家でもない私があらすじをくどくどと説明するのは控えて、経営者にぜひ聞いてもらいたい演目とその理由を書いてみます。
百年目
商家の旦那と番頭が登場人物。経費の使い方について学びを得られる演目です。
使うべき経費は堂々と使うべきで、売上なり利益に結びつければ良いと思っています。勘違いしている人は1円の出費を抑えることにとにかく固執し、生きたカネを使うことができません。
家業の代表取締役を務めていた時の後半は資金繰り予定表をにらみ続ける日々でした。季節性の運転資金の他にも金融機関から支援を受けなければ支払いに支障が生じる状態で、ヒリヒリとする日々が続いていました。例えば売上実績が予測を下回ると、数ヶ月先の資金繰りがショートします。そうした時には早めにメイン行に一報を入れ、支援に向けた根回しを開始します。順調に行くことばかりではなくて、時には銀行担当者に叱責されることも。現場で戦ってくれる経理財務の担当者と共に、冷や汗をかくことが続きました。
そんなある日、労働組合と話していた時のことです。ある組合幹部が経費節減のために無駄な照明を消せと提言してきました。それはそれで間違いないのですが、優先順位が違っているなと思ったので聞き流してしまいました。効果額の大きなことから取り組むべきで、電気代のわずかな節約で何かをした気になるのは危険だと思ったのです。
事業の存続が脅かされている時に、形ばかりの経費削減で仕事をした気になられてはたまったものではありません。無駄なお金は一円たりとも使わないと決意する一方で、大きな効果を得るためには枝葉末節に目を瞑る勇気も必要です。
この演目の聞き所は最後に旦那が番頭に語りかける場面。自分はこのように従業員に話しかけることができていただろうかと考えさせられました。
茶金
別名「はてなの茶碗」とも呼ばれる演目。顧客が何に価値を見出すのかを考えるきっかけになります。
営業とは何かを売りつける行為のことを言うのではありません。見込客と関係性を構築し、その困りごとを収集する行為を言います。見込客の抱えている課題がわかれば、後はその解決手段を提示してやるだけ。押し売りなどしなくても自然と選んでもらえるようになります。
業界や自社の「常識」とされるものに目を奪われていると、見込客の真の困りごとを忘れてしまいがちです。売り手の都合ばかりを押し付けるようになり、見込客からは逆に嫌われるだけになってしまいます。自分が営業電話を受ける時には強い拒否反応を示すのに、いざ自分が売り手になると見込客の声にろくに耳を傾けようとせずに「売ろう売ろう」としてしまうのは不思議なものです。
自分たちの見込客はどこにいるのか。どんな課題を抱えているのか。その課題を自覚しているのか、それとも教えてやらないといけないのか。課題を解決するにはどんな手段があるのか、それは自社商品で解決できるのか。そもそも見込客はどうなりたいのか。
ある人には水漏れするだけの価値のない茶碗でも、ある人には大金を積んででも手に入れたくなる茶碗になり得るのです。ちなみに私もかつては茶わん屋でした。かつての家業の商品を訪問先で大事に使っていただいているのを見かけるとついうれしくなります。
雛鍔
金融リテラシーについて考えさせられる演目です。私の世代は学校でお金の使い方など教えてくれませんでした。最近はどうなのでしょうか。
貯金さえしておけばお金を増やすことができた時代などとっくに過ぎ去りました。お金の性質を正しく理解して、使ったり増やしたりように努めることが重要だと思っています。特に経営者は事業を営んでいる以上、お金の知識と判断力は必須。「財務のことは苦手」などと言っているのであれば経営者失格です。
ある経営者は少し前までそんなことを平気で口走っていましたが、最近は月次決算の早期化に取り組んだり、自分なりに資料を作成して数字の把握に努めたりしています。当たり前と言えば当たり前ですが、事業承継まもない経営者として努力を続けています。支える立場の従業員も簿記の勉強を始めるなど良い循環が生まれています。経営者になっても常に学び続ける姿勢が必要です。
ポッドキャスト「茶わん屋の十四代目 商いラジオ」を毎週金曜日10:00に配信しています
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