ひと言添える
ちょっとした一言を添えるだけでコミュニケーションが円滑になることがあります。私がどんな言葉を使っているかを書いてみます。
「ご丁寧にありがとうございました」
今の家に引っ越してきて2年半。少し身の回りを整理しようと思い立ちました。アマチュア無線のアイテムがみるみる増えてきて、収納スペースが減ってきたという切羽詰まった事情もあります。さっそく、粗大ごみを出そうとネットで調べたのですが、選択肢の中にずばり当てはまる品目がありませんでした。そこでやむなく電話して問い合わせることに。できればネットで完結させたかったのですが、電話をせざるをえませんでした。
電話に出てくれた人はてきぱきと状況を聞き出してくれます。無駄なやり取りがなくて、こちらが気分よくなるくらい。少し待たされる場面もありましたが、電話で申し込みまで終えることができました。最後に「ご丁寧にありがとうございました、助かりました」と伝えると喜んでくれたようで、「お役に立てて良かったです」とお互い気分よくやり取りを終えられました。
顔の見えない、そして少なくとも近いうちに再びやり取りを交わすことのないであろう人との繋がりでしたが、だからこそ最後は気分よく終えたいもの。私は最後にできるだけひと言添えるように心がけています。コンビニで買い物をしたら「ありがとうございました」と言うようにしていますし、飲食店を出る時には「おいしかったです」とお伝えするようにしています。相手に媚びるつもりはなくて、単純に感謝を伝えているだけのこと。これだけでこちらも気分よく次の行動に移ることができますし、おそらく相手も悪い気はしないことでしょう。
何事もネット上のやり取りで済んでしまいがちだからこそ、現実の人とのつながりは大事にしたいものだと思っています。ただでさえ人手不足やらなにやらで殺伐としている時代。ちょっとでも心が温かくなれるのであれば、ひと言添えるくらいなんてことではありません。
「いつもご支援いただいてありがとうございます」
家業の代表取締役を務めていたとき、金融機関7つと取引をしていました。もちろん、日々の業務は担当者同士のやり取りで行われていますが、何かが起こった時や報告が必要な時には会社のトップの私が足を運ぶようにしていました。
例えば、季節性の運転資金以外に支援してもらう必要が発生した時や、売上の低迷が続いて月次での報告を求められた時などです。他には、新聞に掲載されるような不祥事を発生させてしまった時には真っ先に私が報告に向かいました。そうしたときに私が心がけていたのは自らの言葉で語ること。金融機関の担当者は詳細な数字の説明など代表取締役に求めていたわけではなく(たぶん)、状況をどう考えていてどうするつもりなのかを責任者に語らせたかったはず。そう考えていた私は、自分なりに事態を説明しようと銀行巡りを続けていました。
そうした金融機関との面談を終える時、私は「いつもご支援いただいてありがとうございます」と言葉にして発するように心がけていました。すでに銀行の資金繰り支援がなければ事業を存続できない状態だったので、率直に感謝の言葉を伝えるようにしていたのです。媚びているわけではなく、単純に事実関係がそうであっただけ。事業を存続させるために必要な資金が途絶えないように支えてくれる彼ら彼女らに対し、感謝の言葉を口にするようにしていました。
だからというわけではないのでしょうが、投資ファンドに事業譲渡をする最後の日まで、取引金融機関は1つも脱落することなく支え続けてくれました。時に厳しく叱責されることもありましたが(机も叩かれた気がする)、取引金融機関の支援のおかげで事業を存続させることができました。
「それは経営判断です」
中小企業支援に携わっていますが、経営者に手取り足取り何かを指導するなんて失礼なことはしていません。対話を通して知恵とアイデアを提供しますが、それらを使うかどうかは経営者が決めるべきこと。経営判断です。対話の中で質問してもらえるのは大歓迎ですが、中には経営者の代わりに私の判断を求めてくる人もいます。そうした経営者には「それは経営判断です」と伝えて、自分で考えて判断を下すように促します。
事業を存続させて社会に価値を提供しつづけるためには、正解のわからない状況下で判断を下し続けていく必要があります。他人がそれらしく話す正解らしきことに安直に飛びつかないようにしてもらうためにも、経営者が判断すべきことには立ち入らないようにしています。
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