仕事をしていて締結を迫られる契約について考える
コンプライアンスなどへの兼ね合いで、契約書への署名・押印を求められることがあります。また時には自分が相手方へ契約締結を求めることも起こり得るでしょう。
10年間の秘密保持契約
あるプロジェクトに関わる前に、先進的な取り組みをしているとされる企業へ研修目的で派遣されたことがあります。その企業というのが一歩足を踏み入れた途端に異様な雰囲気を感じるところで、「これはまずいところに来てしまったな」と感じてしまいました。そうした最初の違和感というのは外れることがなくて、案の定、数年間に渡って負の側面をつぶさに目撃することになってしまいました(それはまた別の話)。
その企業からは研修開始にあたって秘密保持契約を締結するように求められました。他企業から派遣されて来ているのに、個人である私に対して契約締結を迫ってくるのです。やむなく署名しましたが、異様だったのが期間を 10年間と定めていたこと。この種の拘束期間としては異例の長さ。これだけでも「奇妙な」会社であることを現しているように感じました。何か後ろめたいことをしているから誰かを拘束しようとしているわけで、こうした行為が逆に相手を身構えさせることになるとは想像できなかったのでしょう。
秘密保持契約を交わせば安心なのか
中小企業支援に携わっていると、他社と秘密保持契約を交わそうとする経営者を見かけることが多いです。例えば、何か商談が発生すると「先にNDAを取り交わしましょう」などとなります。秘密保持契約を取り交わすこと自体に異論はありませんが、形式的な手続きになっていないか不安になることがあります。秘密保持契約を取り交わしていても、第三者に軽く口外してしまうような経営者が案外、存在するのです。
また、まだ何者でも無い創業まもない個人や法人が過度に秘密保持に気を遣うのも考えものです。もちろん技術や営業に関する秘密は誰でも保護しなくてはいけないわけですが、ちょっと商談をするだけでも「秘密保持契約を取り交わして欲しい」などと言われてしまうと、せっかく創業まもない企業と話してやろうなどと考えていた商談相手は煩わしさを感じてしまうことになります。このあたり、創業まもない個人や法人は実務とのバランスを考慮して、相手方と対話する必要があります。
ある創業まもない企業はホームページを用意していませんでした。厳密に言うと、中身の薄いトップページだけを公開していて、その他の情報は一切公開していなかったのです。経営者に理由をお伺いすると「秘密保持のため」だそう。秘密保持が必要なのは当然ですが、あまりにも情報量が少なすぎることで不信感を与えかねないレベルでした。今どき、ちょっとでも関心を持った企業のホームページを検索するのは当たり前の行為です。せっかく興味を持ってもらっても、中身の薄いコンテンツしか用意されていなければ「事業の実態があるのだろうか」などと心配させてしまうことになりかねません。事業を営んでいるのであれば、秘密に適度に配慮しつつ、積極的に自分たちが何者であるかを開示してもらいたいものです。
競業避止契約の期間は短くなる傾向にある
今朝の日本経済新聞に従業員と会社が締結する競業避止契約について記事が載っていました。参考になったのが「以前は制限期間は2年でも認められたが、事業ノウハウや営業秘密の陳腐化が早い今は1年を超す制限は認められにくくなった」というコメント。会社側はできるだけ長く拘束したいと考えるのでしょうが、今は1年が相場ということです。
同業への転職禁止、厳格に
日本経済新聞 電子版2024年9月3日
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO83624100S4A920C2TCJ000/
そういえば私も江戸時代から続く家業を事業譲渡した相手方の投資ファンドと、似たような契約を締結した覚えがあります。確か、初年度だけ関わった際の顧問の業務委託契約に一文が挿入されていたような。もう期限は過ぎていると思いますが、あまり良い印象を受けなかったことは確かです。
企業は何かを抑止しようと契約書に一文を入れたがりますが、それだけで実効性が担保されるわけではありません。日頃から関係性を構築しておくことも、また必要な取り組みの一つです。
ポッドキャスト「茶わん屋の十四代目 商いラジオ」を毎週金曜日10:00に配信しています
関連記事