過去の失敗体験をお伝えする仕事
年に数回だけ、人前でお話しする仕事が舞い込んできます。
家業の代表取締役を退任したあとのインタビュー
家業の代表取締役を退任した後に、事業を引き継いだ投資ファンド経由で取材依頼がありました。破綻の経緯をインタビューして記事にしたいと言うのです。ファンドは受けて構わないと言うし、私も愛読していた連載だったのでお受けすることに。その記事が中小企業支援家に転身する助けになるとは、東京に帰って「さて何をしようか」と呆然としていた当時の私は夢にも思っていませんでした。
記事は私の1人語りの体裁ですが記者さんが執筆したもの。江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡せざるを得なくなった経緯について、ざっくばらんにお話ししました。退任のほとぼりがまだ冷めていない頃だったので少し感傷的な気分ではありましたが、客観的な内容にまとめていただけたのを感謝しています。
私からしたら、こうした記事が表に出ることで投資ファンドに再生から逃げないように釘を刺すことが可能になります。途中で放り出したり、得体の知れない会社に売り逃げすることがしづらくなるようにささやかな圧力をかけているつもり。案の定、再生とは程遠い状況が現在でも続いていて次のオーナーに託すこともできないようで、いまだに投資ファンドが株を持っているようです。当初は3年をメドに次のオーナーを探し出して売却すると公言していたので、彼ら彼女らにとっても厳しいプロジェクトになっているようです。
この時の記事を転職時に参考資料として添付したところ、後から聞いたところではかなり注目してもらえたそう。「こうした経験をしているのであれば、経営者の話を丁寧に聞いてくれると思った」と面接してくれた人が教えてくれました。ただ取材を受けただけなのに、何が人生の転機になるかわかりません。
今日も「話す仕事」をした
さて、今日は某企業の勉強会でお話しさせてもらいました。内容は家業の事業譲渡について。退任直後にインタビューをしていただいた元記者さんからのご依頼です。持ち時間は1時間でその後は質疑応答とのことでした。これまではもう少し長い時間を話すことが多かったので、この機会にあらすじを見直すことに。パワポの資料もごっそり削ぎ落とし、新しい流れでお話ししてみました。
反応は良かったようで、後半の質疑応答では活発に意見をいただくことができました。少人数でしかもオンラインとのことで緊張しましたが、うまくお伝えすることができてホッとしています。
いつもお話ししているコンテンツでも見直しは必要です。慣れとは恐ろしいもので、同じあらすじで話すことほど楽なことはありません。でも聞き手はその微妙な慢心を察知するわけで、毎回、万全の準備が欠かせません。以前にある人物の講演を何度か聞く機会がありましたが毎回同じ内容。自慢話ばかりなのが鼻につく感じで、同じ感想を話している人がいて笑ってしまったことがあります。
講演とは「参加人数x持ち時間」という膨大な時間を預かる仕事です。次回もきちんと準備して臨みます。
十年一昔
その次回の話です。10月と12月にも、江戸時代から続く家業を事業譲渡した経緯を話せとご依頼いただいています。
10月は毎年お声がけいただいている団体で、地域企業の幹部候補生の方に向けて、事業を存続させることに焦点を絞ってお話しします。雇われる立場でありながら、いずれは経営に関与することを求められている人々なので、私の話を真剣に聞いてくださいます。興味本位で聞きたがる方の依頼は引き受けていない一方で、こうして家業と私の失敗体験から何かを学ぼうとしている方からの依頼は大歓迎です。
12月は部活の先輩経由でのお声がけ。現役の経営者に100年企業のさまざまなストーリーをお伝えする会と聞いています。私のように家業にとどめを刺してしまった者がお話しして良いのか多いに疑問ですが、部活の先輩からの指示とあれば断れません。
家業を投資ファンドに事業譲渡してから、来年の3月で10年となります。いまだに関心を持ってもらえることに驚くと同時に、十年一昔というくらいですからそろそろ昔語りをするのも終わりにすべき頃かもしれないとも考えます。本来であれば投資ファンドが再生した新会社が脚光を浴びていて欲しいのですが、なかなか歯がゆい状態がズルズルと続いてしまっています。残念ながら、私がお話しする機会はまだ少しの間、あるのかもしれません。
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