地方中小企業が持続可能性を高めるための踏み台になります

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コラム

従業員を入れ替えてでも事業を存続させる覚悟があるか

時に厳しい判断を迫られるのが地方中小企業の経営者です。事業を存続させるためには、必ずしも雇用の維持だけが正解ではありません。広い視野でもって判断を下す必要があります。

顧客と従業員の年齢を合わせる

ある企業の経営者とお話ししたとき、その会社の成り立ちを丁寧に説明してもらうことができました。私もたまたま以前から知っていた会社だったので、興味深くお話を聞きました。その中で印象に残っているのが事業の成長に合わせて従業員を入れ替えていたという事実です。

創業間もない頃は会社を大きく成長させるために、少数精鋭の従業員は、いずれも経営者より年下の社会人になって間もない人ばかりを採用していたそうです。ところが取り扱うサービスは経営者などを顧客として想定しているものでした。次第に社会経験の浅い従業員と顧客の間にミスマッチが生じがちになり、このままでは成長を持続させることができないと気づいたそうです。

この時経営者が下した判断は従業員を入れ替えるというものでした。それまで在籍していた従業員には順次、円満に退職してもらい、顧客である経営者と釣り合うような経験、年齢の従業員を増やしていったそうです。

社会保険労務士の看板を掲げている私にとって、従業員を入れ替えるというのは実務的になかなか困難であると感じてしまいます。日本の労働法制は基本的に労働者を守るために発展してきたからで、経営の都合だけで従業員を入れ替えるのは不可能に近いです。しかし、時間と費用をかけて取り組めば実現できる可能性もあります。経営者のビジョンを実現するために、従業員を入れ替えるというのが取りうる選択肢の一つであると知った出来事でした。

新規事業は別会社で

ある会社では新規事業を進めていて、どうやら「はずれ」ではないことが明らかになりつつあります。失敗するのが当たり前でもある新規事業で、成長の確信を得つつある現在の状況は経営者にとって非常に喜ばしいものです。一方で、既存事業に携わっている従業員の間には新規事業に対する理解が進みません。経営者が一人で道楽をやっているように見られがちなのです。

私はこの会社の経営者に、新規事業を独立させ別会社で営むことも選択肢だと提案しています。既存の枠組みの中では新規事業の持ち味を生かすことができず、既存事業に埋もれかねません。せっかく成長のヒントを得ているのに、このままでは無理解な従業員に潰されてしまうと考えたのです。

人はそもそも保守的な動物です。特に既存事業に従事してきて、これまで利益を生み出してきた従業員にとっては面白くない話。成るか成らないかわからない新規事業は、自らの存在を脅かすものに映ってしまうのでしょう。そうした思考を持つ従業員に、いくら論理で解いてもなかなか理解を得られる事はできません。であるならば、いっそきれいに別会社に新規事業を移してしまい、真っさらな環境で取り組んだ方が成功の確率が高まると考えています。

雨の中たたずむビジネスパーソン

経営者は決断し続けるのが仕事です

事業の存続か従業員の雇用か

家業の代表取締役を務めていた時、事業を存続させるために従業員の雇用維持を後回しにしたことがあります。外部の資本を入れようとした時、自社の都合だけをスポンサー候補に押し付けるのは現実的ではありませんでした。その時、経営に求められたのは譲れない一線を決めることです。私は事業譲渡後も事業を存続させるために、仕入債務を1円も毀損させないことに重きを置くこととしました。仕入先の心が離れてしまっては、外部の資本を入れられたとしてもその後の商売に重大な支障が生じると考えたのです。そして、従業員の雇用を守るのはその次の優先順位としました。

それまで従業員には早期退職制度を複数回実施し、割増退職金を受給できる機会を何度も提供してきました。また、事業の置かれている厳しい状況については数字を含めて開示し、実態を理解してもらえるように努めてきました。それだけのことをしてきた自負があるからこそ、雇用の維持だけにとらわれることなく経営判断を下すことができました。

もしあの時、感情論に走って従業員の雇用を守ることに重きを置いていたら、スポンサー候補との交渉はいずれも決裂していたことでしょう。事業を存続させるために冷静な判断をしたからこそ、投資ファンドに事業譲渡することが実現しました。


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