経営者の体験格差
子どもの体験格差という言葉を目にするようになりました。家庭の経済的な状況などにより、習い事に通ったり家族旅行に出かけたりする体験が乏しいと、日々の生活の中で「これをしたい」という選択肢を思い浮かべることができなくなってしまうそう。日々、経営判断を求められる経営者にも多様な体験は必要です。
経営経験が中小企業支援に生きる
先日、ある経営者とお話ししたときのことです。協業候補と具体的な交渉を進める過程で、誰かからアドバイスをもらいたいと言います。私はすぐに弁護士を使うようにお勧めしました。こうした局面では、公的支援機関に所属している無料で相談できる専門家らしき人を頼ったところで、法的な裏付けを得られるとは限りません。最初から企業法務を手掛けている弁護士に助けてもらうのが間違いないと考えたのです。
私がこうしたアドバイスをすることができたのも、過去に弁護士に助けてもらったことがあるから。家業の代表取締役を務めていた時に、社外取締役として顧問弁護士に関与してもらっていたことがあるのです。取締役会に毎回参加してもらい、法律面でのアドバイスはもちろん、社外からの貴重な意見を多くもらっていました。弁護士との仕事を経験したことがあるからこそ、彼ら彼女たちの使い方を具体的にイメージできるのです。経営経験があることがどれだけ中小企業支援に役立っているか、たくさんありすぎていちいち数え上げられません。
経営者だからこそ様々な経験をしてほしい
地方中小企業の経営者と話していると日々の業務に追われてしまっていて、視野が狭くなっている人を見かけることがあります。こうなると危機的な状況です。経営者の仕事は不確かな将来に向けて、決断をし続けていくこと。少しでも成功確率を高めるためには、判断材料を多く手元に用意しておく必要があります。判断材料とは知識、経験などのことです。学べば手にすることができる知識だけでは経営判断を下すのには不十分で、豊かな経験も必要です。この場合、事業に関わる経験ばかりではなくて、経営者の認知を拡げることができるのであればどんな経験でも有用です。
ある経営者は非常に多趣味な人です。釣り、機械の操縦、アウトドアなど様々なことに全力で取り組んでいるそうで、どこにそんなエネルギーと時間があるのかと不思議になるくらいです。しかし、会社は成長を続けていて新しい事業に次々と挑戦を続けています。私は経営者の「体験」が豊かであるから、イノベーションを生み出し続けているのではないかと考えています。
経営者は日々の業務からあえて距離を置くことも時には必要で、自分の中に蓄積された「体験」の棚卸をしてみるのもよいでしょう。特定の専門分野に知見があるからといって起業しても、それだけで事業を成長させることは困難。様々な経験を積み重ねていくことで、経営判断の確度を高めていくことができます。
茶道教室での体験が中小企業支援に生きている
一昨年から茶道教室に通っています。毎週土曜日の午後のお稽古を続けていて、いつまでも上達しない自分に愕然とするばかりです。前回は夏らしく平茶碗を使ったお点前でしたが、一年前の記憶が定かでなくてまた一から教えていただくことに。そんな程度の私ですが、それでも新しい世界を垣間見ることができるというのは知的な刺激にあふれています。また、この歳で何かに没入できる時間を持つことができるというのも新鮮です。
当初は以前から気になっていたから習い始めただけでしたが、中小企業支援での経営者との対話にも関わることに気づいてからはさらに面白くなってきました。お点前でお客様と向き合うというのは、まさに経営者と対話する中小企業支援と同じ。経営とまったく関係のなさそうな経験が、日々の仕事に生きていることを実感しています。
経営の選択肢をより確かなものにしようと考えると、何かを学び直したり、誰かの意見を鵜呑みにしたりしがちです。でも、経営者自身が新たな経験を積み重ねることも役に立ちます。子どもの体験を豊かにするには大人や社会の支援が必要ですが、経営者は自分で行動することができるはず。経営の選択肢を増やし、より確度のある決断を下すためにも、多様な経験を積み重ねましょう。
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