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コラム

お世話になっていた百貨店がまた一つ廃業した

家業の茶わん屋でお世話になっていた百貨店がまた一つ、事業を閉じました。すでに営業は去年の1月に終えていて、つい先日、裁判所から特別清算手続きの開始決定を受けたそうです。

地方都市の百貨店

かつての家業は、戦後に百貨店への出店を果たしたことで事業を大きく成長させました。大都市のターミナル駅にあるような百貨店はもちろん、地方都市にも出店。中元や歳暮などのギフト需要を取り込んで、多くのお客様に対し商品を販売させてもらいました。そんな百貨店での商売ですが、会社としての利益がより多く残るのは地方都市の百貨店との取引でした。販売員を配置する必要がなく、売り上げ規模はターミナル駅にある百貨店に見劣りしても、底堅く稼がせてもらうことができました。

いくつもの百貨店と取引をしていると相性も生まれます。あくまで納入業者の一つとして取引させてもらっているわけで、その他大勢の取引先としてしか見られないところもあれば、なぜだか社長やオーナーに気に入っていただき濃い関係性を築くことができるところもあります。今回、事業を清算している百貨店は後者。父も私もたまにしかお伺いできなかったのに懇意にさせていただいた会社でした。百貨店のお付き合いは父に任せがちでしたが、この百貨店へは年に1回くらいご挨拶に伺っていました。

私の家業を一足先に投資ファンドへ事業譲渡することになってしまい、最後はご挨拶らしいご挨拶ができなかったものの、お互いに厳しい商環境で家業を預かっている者としていろいろお気遣いいただいたのが記憶に残っています。最後まで逃げずに経営者の務めを果たされたのはさぞご負担だったことでしょうし、悔しい思いもされていることでしょう。

「つぶれた」という表現が嫌い

会社やお店が廃業すると「あのお店つぶれた」などと表現する人がいます。私はこの表現が大嫌いで、「店を畳んだ」と言うようにしています。何か悪いことをして外部からの圧力で事業の継続が困難になったような響きが苦手で、また自分が窮境に陥っていた会社に在籍していたこともあってこだわっているいる言い回しです。

ある時、家族が街で見かけたお店がたまたま廃業しているのを指さして「あのお店つぶれてる!」などと言っているのを目の当たりにしました。その場でそういう言い方はないぞと指摘したのですが、あの時のざらっとした不快な気分は今でも忘れられません。畳みたくて会社やお店を畳む人なんているわけがなくて、至らない経営が原因であったとしても、関係のない誰かに後ろ指を指される理由なんてありません。街でお店が閉業しているのを見かけたら、事業を存続できなくなった経営者に思いを巡らせてほしいものです。

私がかつての家業を投資ファンドに事業譲渡したのは、経営破綻であり、倒産です。でも誰かにつぶされたわけではなくて、後ろ指を指されるようなこともしていません。戦後に百貨店で商売させてもらって強烈な成功体験を経たものの、その後しなやかに変わり続けなかったがために存続できなくなっただけのことです。

JR帯広駅

また訪れてみたい街の一つです

夢があるだけ幸せ

創業を志す人へのご支援に携わっていると、必ずしも全員が思い描いていたような成功を手にできない現実に直面します。自分の夢を実現しようという強い思いがあるからこそ、無謀な挑戦にも足を踏み入れてしまう人が現れます。営業から逃げ続けて補助金ばかり探し求めたり、思い込みだけでクラウドファンディングに挑戦して手痛い結果を突き付けられたり。創業の良い側面ばかりが強調されがちなこの頃ですが、物事には必ず表と裏があるものです。

創業を志す人に私が伝えるようにしているのが、「夢があるだけ幸せですよ」という言葉です。今の世の中にない新しいものを生み出そうと、既存の何かと何かを掛け合わせてイノベーションに取り組むことができるのは創業を志す人だけの特権です。多少の困難があったとしても、また必ずしも全員が成功しなかったとしても、その夢を追い求められるのは幸せなことだと思うのです。

今日もある経営者とお話しする機会がありました。まだ創業まもない会社の経営者ですが、しっかりとビジョンを掲げて経営に取り組んでいます。事業を畳もうとしている元経営者の消息を耳にしたり、これから世の中を変えようとしている経営者とお話ししたり。中小企業支援家をしていると様々な別れと出会いを経験します。


ポッドキャスト「茶わん屋の十四代目 商いラジオ」を毎週金曜日10:00に配信しています

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