中小企業支援に必要なのはナラティブ
中小支援業界には様々な人がいますが、多くは経営者の真のお役に立てていないように思います。補助金を勧めるだけであったり、あるべき論をぶつけるだけであったり、自分の承認欲求を満たすためであったり。そんな輩が跋扈しているのです。中小企業支援に必要なことについて書いてみます。
経営経験が必須ではないけれど
中小企業支援に携わろうとするのであれば、経営経験は「ほぼ」必須だと思っています。私が地方中小企業の代表取締役を務めていたからというのではなく、経営者と対等に話すために経営のリアルを体感しているというのは重要な要件だと心の底から感じるからです。
私が家業の代表取締役を務めていた時、多くの経営コンサルタントと話す機会がありました。銀行から紹介されて来た人であったり、商工会議所の相談窓口で対応してもらった人であったり。残念ながらその多くの人々は経営の教科書に書いてあるようなあるべき論を語るばかりで、経営のヒントになるようなことは何一つ教えてくれませんでした。
その後、私が中小企業支援家に転身してからは多くの経営者と対話を重ねてきました。彼ら彼女たちと向き合う時に心がけているのはまずは話を聞くこと。話も聞いていないのにいきなり欠点をあげつらうような専門家らしき人々には辟易していて、まずは経営者に好きなだけ話してもらうことからすべてが始まると考えています。面白いことに、話すだけ話すとそれだけで感謝されることもあります。本当に何にもしていないのに喜ばれてしまうのには戸惑うばかりなのですが、それだけ経営者は孤独なのでしょう。
経営経験で強烈だったことの一つは金融機関との関係性構築でした。約束を守ってもらえなかったり、意地悪をしてきたりといったことを都市銀行が平気でしてくるというのは世間知らずの私には衝撃の連続。それでも致命的なケンカをすることなく支援を受けて事業を存続させなければならないわけで、番頭さんとして銀行交渉の前面に立ってくれた専務がいなければ事業譲渡は完遂できなかったと思っています。この時の銀行との関係性構築の機微は中小企業支援家になってから役立っていて、関与先の資金調達を支援する際に喜ばれています。
経営者の重圧と苦悩を理解できるか
経営者と対話しようとするのであれば、重圧と苦悩を理解できる感性が必要です。必ずしも経営経験が必要だとは思いませんが、少なくとも経営したことがあれば簡単に理解できるはずです。教科書に書いてあるようなことしか知識がないのに、わかったような顔をして経営を語るのは何より嫌われる行為です。大企業OBであったり、資格を持っている専門家にそうした人が多いように感じていて、人によっては上から目線で経営者に接しようとするのには呆れるばかりです。
ある専門家(らしき人)は学歴が唯一の武器だったよう。〇〇大学出身というのをやたらとほのめかしてくるのですが、彼から経営のヒントらしきものは一切得られませんでした。それでも銀行から紹介されてきたチームの一員なのでぞんざいに扱うわけにいかず、「〇〇大学卒業とはすごいですね」などと持ち上げながら数か月をやり過ごしたことがあります。
また、あるコンサル会社の担当者は業績が窮境に陥っている会社の経営者や幹部などと直接話す気はないらしく、銀行や他関係者の方ばかりを向いて仕事をしていました。次のステージでもその会社を引き続き関与させるかどうかが議論になりましたが、結果は退場いただくことに。中身のない自称コンサルタントは同業者からも疎まれる存在になっていたようです。今後の関与は不要と伝えられた時の彼と上司の呆然とした顔を忘れることはありません。
中小企業支援に必要なのは資格ではなくナラティブ
私がこれまでなんとか中小企業支援業界でやってこられているのも、経営者に共感される要素を持ち合わせているから。ずばり、経営経験です。同じ苦労をしてきていて、さらに知恵やアイデアも提案してくれるというのだから便利に使ってくれているわけです。社会保険労務士という資格も持っていますが、この資格を入り口にして経営者と繋がったことは一度もありません。資格ではなくナラティブ(江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した経験とその背景にある物語)があるからこそ、経営者と繋がることができていると自覚しています。
〇〇士の資格を取ったからといってそれだけで頼りにされることなどなくて、今は弁護士ですら事務所経営に苦労する時代です。ましてやそれ以外の資格を持っているからといってそれだけで成功が約束されるなんてことはありません。地方中小企業の経営者と関係性を築こうとするのであればできれば経営の現場を経験していて、教科書に書いてあるようなことを得意げに話すなんて過ちは犯さずに、経営者の言葉に耳を傾ける姿勢が何よりも求められると考えています。
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