地方中小企業の経営者に求められる、動じないメンタルの作り方
「岡田は何が起こってもあまり動揺しないよね」と言われたことがあります。どのような経験を経て、今のような性格になってしまったのかを書いてみます。
人生で最も緊張したのは高校ボート部のレース
これまでの人生で最も緊張した瞬間を挙げるとしたら、高校2年の春に臨んだレースのことを思い出します。先輩3人に交じって乗った艇で私は整調というポジションを務めることに。メンタルを整える余裕もないままにレースに突入してしまい結果は惜敗。準備ができていなかったから緊張したのか、数分後に勝利を得ている自分をイメージできていなかったから緊張したのか。一年後に借りを返したレースまでは、長くつらい練習が続きました。
あの時の自分の足が地面に着いていないような感覚は今でもよく覚えていて、自分の状態を把握するためのバロメーターにもなっています。あれほど緊張することはその後に経験したことはなく、だからこそ自分のメンタルをそれなりのコントロールする余裕が生まれたように思います。
「緊張している自分を自覚しなさい」というのは学生コーチ時代に私が後輩たちに伝えていた言葉です。練習は別として、年間数レースしか経験できないボート競技という特性上、場慣れできずにレース本番で緊張してしまうことは避けられません。であるならば、緊張している自分を素直に受け止めることが、パフォーマンスを最大化する一助になると考えました。
家業の経営者を務めて「腹をくくる」ことを知った
家業の代表取締役を務めることになる前の準備期間は実質的にゼロ。取引金融機関から遠回しに社長交代を求められたための緊急登板でした。直前までは経理財務部の係長で部下は無し。本社部門の見習いを始めたばかりだったのに、急きょ、事業承継を迫られることになったのです。
この時、準備期間がなかったことが逆に腹をくくることに繋がりました。「今ここで自分が逃げたら銀行の信用を失い、事業を存続させられなくなる」と考えたのです。ただそれだけ。経営能力や何かの知識を買われて、社長に就任することになったわけではありません。創業家出身の十四代目として逃げずに経営に取り組むことを求められただけのこと。そう考えると不思議と心に余裕が生まれて、「担がれて神輿に乗る」覚悟を決めることができました。
就任して改めて気づいたのが、社長の口から生まれる言葉は重いということ。ひとつひとつの見解がそのまま会社としての方針になり得るわけで、覚悟を決めて発言する必要があります。あいまいな表現は混乱をもたらすだけなので、ただの感想を述べることはできるだけ避けるようになりました。従業員との会話一つにしても何をどう受け取られるかわからないので(悪用する従業員もいたな)、言葉を選びながら、でも端的に発言するようになりました。
最後は投資ファンドに事業譲渡してなんとか「のれん」を残すことができた家業でしたが、私にとってはリーダーシップを学ぶ得難い訓練の場でもあったのは皮肉な話です。期せずして第二の社会人人生を歩いている今、当時の経験は大いに役立っています。
予期せぬ出来事が起きた時に「お、やってきたな」と感じるくらいの余裕を持つ
地方中小企業を経営していると日々、事件が起こるもの。今日もちょうど顧問先からトラブルが発生したと連絡が入ったところです。事業運営の根幹をなす設備に関するもので、年度末を控えた繁忙期のトラブルは大きな痛手になるはず。それでも淡々と対応されている経営者が、わかりやすく初動の状況を報告してくれたのは安心材料のひとつです。
深刻なトラブルが発生したとき、バタバタしたところでどうなるわけでもなく、経営に携わっているのであれば手元にある選択肢の確認と、ピンチをピンチのままで終わらせずに済む方法がないかの検討を心がけたいところです。私がこのタイミングで提案したことは長期での設備更新計画の立案。それまで様々なことを言い訳に場当たり的な対応に終始してきたことは知っているので、この機会に後手に回らない経営を目指すようになってもらいたいと考えています。
経営者がいちいち物事に動じていたら、まともな経営など覚束ないことでしょう。予期せぬ出来事が起きた時に「お、やってきたな」と感じるくらいの余裕を持てるようになれば、解決の主導権を自分で握ることができるはず。
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