資金繰りがすべて
地方中小企業の経営者とお話ししていると、資金繰りについて理解していない人が多くてぞっとします。特に窮境に陥っている経営者は、事業計画や受注見込について語るのも大事ですが、まずは資金繰り予測表をさっさと作成してほしいなと思うのです。
商売とはお金を増やす行為
誤解を恐れずに言えば、商売とはお金を増やすのが目的です。立派な事業計画を作ることや、ベンチャーキャピタルから出資を受けることが目的ではありません。創業まもない経営者に多いのが、稼いでお金を増やすという商売の本質を理解していない人です。そういう経営者に限って、資金繰り予測表の重要性を全く理解していません。
資金が尽きたら事業は終わりというのは単純なルール。手元の資金が薄くなったからといって、どこかから借りてもいつかは返さなくてはならず、刹那的な対応に留まります。商売の本質は稼いで増やすことにあるのです。
ある経営者の事業は創業以来赤字が続いていました。資本金はすぐに溶かしてしまったようで、親族から出資を受けて追加した資本金も同様にすぐに失ってしまいます。この時点で商売に失敗したのは明らかで、事業を整理すべきでした。この後に悪手だったのが、知人などから借金を重ねるというその場しのぎの対応に走ったこと。そもそも稼ぐ力もないのに延命したところで結果は変わりません。最後は迷惑をまき散らしたまま、廃業してしまったと聞いています。
ごちゃごちゃ言う前に資金繰り予測表を見せてください
私は財務の話から支援を始めることはしていません。「決算書をまずは見せてください」という入り方をしないことにしているのです。顧問先でも「財務については触れてほしくない」という会社がいます。それはそれで経営判断なので構いません。そうした顧問先では、売上アップを実現するための知恵とアイデアを提供することに徹しています。
ただ、経営が行き詰まってきているとなると話は別です。必要であれば再建策を一緒に検討しなくてはいけないので、財務に関する資料を開示してもらうことになります。この時に経営者の資質が明らかになるのですが、資金繰り予測表をずばっと提示できる経営者が少ないのです。私に格好をつけたいのか、窮境に陥っている状況を改めて可視化してしまうことに抵抗があるのか。いつか資金が尽きてしまうという現実(=資金繰り予測)をなかなか開示してくれないのです。
窮境に陥りつつある経営者に私が要求するのは「資金繰り予測表を見せてください、無いのであれば保守的な予測の元に作成してください」ということ。まずはお金の出と入りについて把握しないことには残り時間もわからず、対応を検討しようが無いのです。
資金繰り予測表を作ったことが無いという経営者には日本政策金融公庫のテンプレートを勧めています。Excelファイルでダウンロードできるので、自社の数字を入力するのみで資金繰り予測表が完成します。危機を可視化することがすべての第一歩です。
資金繰りで重要なのは「実績」よりも「予測」
資金繰り表で大事なのは過去の実績よりも「予測」です。このまま商売を続けて、お金が増えるのか減るのか。お金が減るとして、資金が尽きるのはいつになるのか。将来の見通しを把握するためにも資金繰り「予測」表を手元に用意することが重要なのです。
経営が苦しいから支援してほしいという経営者の中には資金繰り予測表を作っていない人もいます。それはそれでしょうがないことなので、今後、作成するようにすればよいだけ。「資金繰り予測表とは手元資金の状況を将来に向かって可視化するもの」という本質を理解してもらえれば、新たな業務が増えてしまうことについても抵抗感は生まれないはず。逆に資金繰り予測表無くして、「資金が足りない」「支援してほしい」と連呼しても利害関係者は手を差し伸べてくれることはないでしょう。
私が家業の代表取締役を務めていた時に最も重視していた資料はもちろん、資金繰り予測表です。長く売上が下がり続けていた家業を事業承継し、売上のV字回復もままならず体力を消耗し続ける日々。漠然とした不安に身をすくめるだけなら誰でもできることで、状況を適切に把握し選択肢を握っておくためにも資金繰り予測表は最も重要な資料でした。
ある時ぞっとしたのが、それまで万円単位で作成していたものを、千円単位で作成するようになった時。より精緻に資金繰りを把握しなくてはいけない状況に陥ってしまったということです。その後なんとか投資ファンドに事業譲渡することができましたが、最後の最後まで資金繰り予測表をにらむ日々が続きました。
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