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コラム

業績が窮境に陥っている経営者は従業員とどう向き合うべきか

長く事業を営んでいればピンチが訪れることもあるはず。その時に従業員とどのように向き合えば良いのでしょうか。

数字を伝える

一番下手な手は窮境に陥っている状況を従業員に隠そうとすること。経営者のよくわからない中途半端なプライドがあると、従業員に向き合おうとせずにこの手を選ぶことが多いようです。ただし、従業員にはいつか必ず情報は漏れ伝わります。隠そうとして隠しきれるものではありません。だったら最初からすべてをさらけ出してしまえば良いのです。

私が家業の代表取締役を務めていた際、従業員には財務に関するすべての情報を開示していました。数字を隠さずに提供することで、危機感も共有したかったのです。従業員に数字を開示しているというと「数字を読み解けない従業員が浮き足立ったら困る」「退職者が相次いで退職金の支払い負担が発生したら困る」「取引先に情報が伝わったら信用に関わる」と否定的な意見を述べる人がいます。噓をついたり事実を隠したりしても、全社が一丸になって取り組めているのならばそれで良いのでしょうが、私はそうは思いません。情報を共有することがすべての大前提で、そこなくして危機に立ち向かえるとは思えないのです。

家業の場合は最後は粛々と投資ファンドへの事業譲渡を実現できました。途中で早期退職制度以外からの自己都合退職者が続発することもありませんでしたし、取引先と何か深刻な問題が生じることもありませんでした。もちろん、日々それなりの事件はありましたが想定内のことばかり。従業員と危機感を共有できていたからこそ、窮境に陥っていた事業の軟着陸を成功させることができました。

一つだけ、想定外のことがありました。財務に関するすべての情報を開示していたにも関わらず、「創業家には隠し財産があるから会社が倒産することはない」「実態はもっと健全なはずだ」などと言い出す従業員がいたのには失笑してしまいました。そういうことを口にする低レベルな従業員が存在していたのもすべては経営者の責任です。「隠し財産などありません」「倒産したら私は無一文になります」と真面目な顔をして改めて説明してやらなければならなかったのは、切羽詰まった状況下での喜劇のようでした。

逃げずに先頭に立つ

代表者は会社がどうなろうと最後まで先頭に立ち続ける必要があります。ちょっとでもひるんだ様子を見せたら終わり。従業員や取引先からは、こんな経営者にはついていけないと見限られてしまうことでしょう。

私にとっては逃げずに先頭に立ち続けるというのは、誰に教わったことでも無く代表者であるからには当たり前のことでした。説明するまでも無いことです。

ただ驚いたのが、窮境に陥った会社で、経営者が真っ先に自分を守りに行くことが少なからずあるらしいこと。「会社名義で保有していた自宅に住み続けられるように悪あがきをする」「自分の財産を少しでも残そうと無理な交渉をしようとする」「会社が窮境に陥ったのを従業員のせいにする」といった事を平気でする経営者がいるというのです。そんな経営者には第二の社会人人生などは訪れないことでしょう。経営者が出処進退を誤らないように振る舞うかどうかは、すべての利害関係者が注視していることです。

私が家業を投資ファンドへ事業譲渡した後に、いろいろ支援してくれた方が慰労会を開いてくださいました。その時に言われたのが「経営者が腹を括っていたのでやりがいがあった」といったこと。窮境に陥った会社への支援ではろくでもない経営者や創業家に振り回されることが多いとのことで、家業の畳み方についてお褒めの言葉?をいただくことができました。

横断歩道に備えつかれれている旗

先頭で旗を振るのが経営者の役割

語り続ける

会社が窮境に陥って不安を感じるのは経営者も従業員も同じ。経営者は1人で寝ないで悩めばよいのですが、従業員に同じ苦労をさせてはいけません。彼ら彼女たちには自分の人生を自分で選ぶ権利があるわけで、無理に引き留めようとしたところで逆効果になるだけ。従業員へは会社の現況と未来への選択肢を語り続けてやる必要があります。

残念ながら人は、一度説明を受けただけですべてを理解することなどできません。何度も繰り返し話を聞いて徐々に理解が深まっていくものです。従業員に対しては、事業が窮境に陥ってしまったピンチをチャンスに変えるべく、積極的に対話すれば良いのです。この対話を恐れる姿勢を示したらあっという間に信用を失います。事実を伝えて夢を語るのが経営者の役割。困難な役割だからこそ、逃げずに前向きに取り組めばきっと活路は拓けます。

窮境に陥った時ほど経営者の本性が露わになります。必要なのは、会社の代表者として従業員にすべてをさらけ出し、誠実に向き合う覚悟です。もちろん不合理な要求などには安易に屈さずに、戦うべき時は毅然と戦うことも必要。従業員に媚びろというのではなく、同じゴールを目指す仲間として敬意を持って接すればよいのです。


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