士業マーケティング 中小企業支援家が心がけている経営者との対話のコツ
中小企業支援を生業にしているというと学校の先生のように話している様子をイメージされるかもしれませんが、実際は経営者に話してもらっている時間の方が圧倒的に長いです。私が意識している対話のコツについて書いてみます。
人はそもそも誰かに話を聞いてもらいたがっている
何かを「教える」立場だからといって言葉を並べ立てる必要はありません。反対に相手に感情を吐き出してもらうことで何かに気づいてもらうことも可能。私は話下手なので、意識して相手にお話ししてもらうように心がけています。
そもそも人は誰かに話を聞いてもらいたいと強く願っているものです。一方的に話を聞かされて喜ぶ人など誰もいません。まずはこの本能を理解して相手に向き合うことが必要です。
家業の代表取締役を務めていた時、ある公的機関に相談に行ったことがあります。売上を増やすためのヒントをもらえないかと考えたのです。しかし、窓口の担当者は財務諸表に目を通すなり問題点を指摘するばかり。売上に対して経費の額が多すぎるとか、経費の中でも人件費が過大だとか。そんなことは言われなくてもわかっています。何かヒントを得たいからわざわざ足を運んだのに。
その時の私はただ話を聞いてもらいたかっただけだったのです。売上は下がり続ける、取引金融機関の態度は悪化する、従業員を満足に処遇できない。八方ふさがりに近い状況の中で、利害関係者以外の人に耳を傾けてもらいたかっただけでした。
その後、ご縁が繋がって中小企業支援家に転身した私が心がけているのは、徹底して経営者の話を聞くことです。話すだけですっきりした表情で帰る人もいます。人は誰かに話を聞いてもらいたいものなのです。
話すより聞く
私が高校ボート部で学生コーチを始めたばかりの頃のことです。ある時、自分の経験ばかりを話していても、高校生にまったく響いていないことに気づきました。「僕が高校生の頃にはこんなことをしていた」「僕はこんな風にやったらうまくできた」といった感じ。響いていないどころか、どうやらうっとうしがられている様子でもあります。そのことに気づいてからは自分のことを話すのは最小限にとどめ、高校生の話をできるだけたくさん聞くように心がけることにしました。
また、中小企業支援に携わるようになって間もないある時に、私と相談者の個別相談に同業者に同席してもらったことがあります。その人に後から感想を聞いたのですが「雑談しているようにしか見えなかった」「普段からこんな風に相談対応しているの?」という言葉をもらえました。私からしたらいずれも誉め言葉。「先生と生徒」のような一方通行の対話をしていないということですから。
「先生」などと呼ばれると自分が話さなくてはいけないと勘違いしがち。でも中小企業支援家に何より必要なのは耳を傾けるスキルです。ちなみに私は先生と呼ばれるのが苦手で、単に「岡田さん」と呼んでもらうようにお願いしています。
パソコンを使わず手書きでメモする
商売柄、経営者との対話を記録するのは必須です。同業者の中にはノートパソコンでメモを取りながら話そうとする人もいますが私はそうしません。視線がディスプレイに向いてしまい、経営者の顔を見る時間が減ってしまうからです。パソコンでメモを取ってしまえばあとが楽になるのはわかっています。でもそれは経営者には関係のないこと。対話の時間を少しでも充実させようと考えるのであれば、手書きのメモに限ります。
さらにメモ帳に何を書いているか隠さないのも大事。見せられないようなことなど書いていませんよと伝わるように、堂々とメモ帳を開くことにしています。こそこそとメモを取ることなどしません。ただ、私は万年筆で書き殴っているので自分で自分の字が読めなくなることもしばしばあります。いずれにせよ、メモの内容を見られたところで困ることなどありません。
悪筆なのに万年筆を使っているのが珍しいからか、ある経営者さんが私の真似をして万年筆を使い始めたと報告してくれたことがあります。足元はよく見られるものだから靴はきれいにするように心がけていますが、手元も見られているのだなぁと実感した出来事でした。
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