資本金について考える
資本金とは、事業を始めるにあたって元手となる資金のこと。株式会社では、経営者の用意する自己資金や出資者から募る資金が資本金となります。この資本金、普段はあまり意識することがありませんが、経営に携わるならば意識しておきたい要素の一つです。
資本金とは
定期的に送られてくる小冊子に創業間もない会社の資本金が掲載されています。その資本金の額を眺めていると「この業種でこうしたことをしようとするとこれくらい資本金が必要なのか」といったことがわかるのです。さらに「この事業でこれだけで足りるのだろうか」とか、また反対に「随分と多額の資本金を用意しているな」などと考えるきっかけにも。
例えば
- 人工衛星用〇〇の開発・製造→資本金300千円
- 業務改善・開発のコンサルティング→資本金5,000千円
- デジタル教材の開発・提供→資本金78,676千円
- 規格外農産物の加工販売→資本金25,245千円
- バックオフィスのアウトソーシング事業→資本金3,000千円
といった感じ。
記載されているのは資本金だけなので、資本準備金もいくらか積んでいることでしょう。そういったことも含めて、どういった資本政策を立案して創業への一歩を踏み出したのかと考えだすといろいろと興味深いです。
減資を2回したことがある
企業の「減資で節税」防ぐ
日本経済新聞 電子版 2023/11/7
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO75910110W3A101C2MM8000/
記事によると「総務省の有識者会議は6日、資本金を減資して税負担を逃れる企業の動きを防ぐ制度改正が必要だとの見解で一致した。現在は「資本金1億円超」が基準になっている外形標準課税の課税対象の条件に、「資本金と資本剰余金の合計」が一定額を超えた場合も加えることを求めた。税負担の公平性を確保するのが狙い」だそう。
税負担を軽減するために、大企業が安易に減資するのを抑制しようとする方向に進んでいるということ。資本金が250億円近くあった旅行会社が1億円に減資したりするメリットが今後は無くなるのでしょう。
私は家業の代表取締役を務めていた時に2回、減資をしたことがあります。1回目は、長く実質的に債務超過状態であったので、節税と財務の見た目を改善するためにおこなったもの。株主総会の決議を必要としましたが、特に株主から質問が出ることもなくあっさりと手続きを終えることができました。
2回目は投資ファンドの事業譲渡後に会社を解散したとき。つまり100%減資を行ったのです。すでに出資した当時の方はほとんどが存命でなかったようですが、株主に対して投資ファンドへの事業譲渡について説明し、さらに旧会社を解散することで100%減資になることを説明して回りました。それまで持っていただいていた株式の価値がゼロになるわけですから、誰にとっても面白い話ではなかったはず。それでも投資ファンドの手に渡った新会社への期待と引き換えに、すべての株主からお許しを得ることができました。
実は私自身も株主の一人でした。個人株主の持ち分では最も多かったので、100%減資した場合に被る損失も持ち分に比例して最も大きいものでした。減資というと財務上のテクニックのように感じられることもありますが、信用が低下する恐れもある「切ってはいけないカード」のようなもの。新会社で事業を存続させるためとはいえ、旧会社を100%減資せざるを得なかったというのは無念の決断でした。
株を持つ(持ってもらう)という本質を理解する
中小企業支援に関わっていると、出資や株式というものに対して認識が甘い経営者が多いことに気づきます。安易に「VCから出資してもらって開発を進めます」などと言う経営者には、株を持つ(持ってもらう)という本質についてどこまで理解しているのかと不安になります。
スタートアップ支援というと「VCに出資してもらい成長を加速させ、IPOでイグジット」というのが目指すべきゴールのように語られることが多いですが、事業のゴールは人それぞれのはず。そもそも存続しつづけるのが会社の使命でもあるのですから、もう少し腰を据えた事業計画の策定だって取りうる選択肢になることでしょう。もちろん「株式は自分ひとりで所有して誰にも渡したくない」というのも一つの考え方です。
もし私がこの先、株式会社を興すとするなら基本的に誰からも出資を受けたくはありません。自分が思うように経営をするためにも株式をしっかり握っておく必要があります。最低限2/3超は安定して保有していないと落ち着かないことでしょう。
ある事業者は仲良し2人で創業しましたが、出資しているのは1名のみ。当初は順調でしたがそのうちに関係が悪化。出資者と従業員という立場に分かれて喧嘩に至ってしまいました。出資者が1名だったからなんとか収まったのか、それとも2人で出資していたら防げたトラブルだったのか。今となってはわかりませんが、経営の主導権を誰が握っているのかを2人がそれぞれの立場から理解できていたなら防げた悲劇でしょう。
株式会社を興すのであれば、株を持つ(持ってもらう)という本質を理解してから取り組む必要があると考えます。
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