経営者とどのような話をしているか
ここ最近、地方中小企業の経営者とどのような話をしているかを差しさわりない範囲で紹介してみます。
20年後も事業を存続させるために今から何をすべきか
ある経営者とお話ししているのは事業の持続可能性を担保するための方策についてです。業界全体が縮小し続けていて、率直に言って20年後も同じように商売を続けられるか確信できない状況。20年後に破綻してしまうことがわかっているビジネスモデルにいつまで取り組むのか。そして代わりとなるものは何なのか。そんなことをお話ししています。
人間は本来非常に保守的な動物で変化することを嫌い、身を守ろうと立ち回るものです。経営に対しても同様で、多くの経営者はかつての成功体験にしがみついて事業の成長のバトンを繋ぐことを怠りがちです。私のかつての家業も戦後間もない時期からバブル期にかけては、地方中小企業ながらも新しい事業に取り組むなど挑戦し続けるマインドにあふれていました。ところが百貨店でのギフト需要に応えて稼ぐビジネスモデルがあまりに強烈な成功体験であったために、いつしか進取の気性を失ってしまい、その後の業績の低迷を招いてしまいます。最後は投資ファンドに譲渡して何とか事業を存続させることができたという状態に。
変化し続けるものだけが生き残るというのは会社も同じ。未来を見通せない状況であるならばなおさらで、今から動き出しておかなければなりません。中途半端に事業が存続できているがために「ゆでガエル状態」になってしまうのは何としても避けたいところで、そのためにも私は経営者とお話しし、将来に責任を持つための経営判断を促しています。
契約を打ち切られてしまうことも辞さずに経営者に意見する覚悟
またある経営者とは新規事業を拡大させるか否かを話しています。昨年から取り組んでいる新商品の販売はどうやら空振りではなさそう。といって利益構造を把握できているわけではなく、本当にお金を生み出しているのかまでは精査できていません。目先の商品の動きだけに気を取られていると、そもそもの事業性を見誤ってしまうことになりかねません。経営者に嫌われてしまうのも覚悟の上で、数字で事業を語ることの重要性を繰り返し説いています。
中小企業支援家を生業にするのであれば、契約を打ち切られてしまうことも辞さずに経営者に意見する覚悟が求められます。気に入られるだけであれば簡単なことで、いくらでも経営者が聞きたいようなことを話せばよいのでしょう。「ちょうどよい補助金がありますよ」「社会保険料を減らす方策がありますよ」とかそんなことを毎回の訪問時に伝えれば良いのです。しかし、それでは本来の中小企業支援家の役割を果たしているとは言えません。地に足を着けて商売をし、稼ぎ続ける仕組みを作るためには時には遠回りも必要。経営にショートカットはないのです。
関与先の経営者と長くお付き合いしていると、何か都合の悪いことを隠したがっていることはなんとなく雰囲気で察知できてしまいます。その時に黙って見過ごすことなく、経営者が聞かれたくないであろうことを問いただすのも重要な仕事です。資金繰り、労使関係、もちろん受注動向についてなど。嫌われてしまうのも覚悟で話を聞き出し、どのように対応すべきかを一緒に考えるように心がけています。
徹底的に話を聞き、そして一緒に思考する
ある大学発ベンチャーが手掛けている事業の基幹技術は私がまったく理解できない性質のものです。にもかかわらず、経営者は定期的に私との意見交換を望んでくれています。商売の原理原則は業種を問わずに当てはまるもの。そう信じている私は京都の茶わん屋出身ですが、大学発ベンチャーの経営者と事業を成長させる方策について議論をすることができています。
また別の会社も同じく研究開発に取り組んでいるところ。電流と電圧の違いもわからない私ですが、経営者は私が顔を出すといつも30分くらいかけて直近の状況を報告してくれます。
刹那的な支援をしようと思えば、公募中の補助金を紹介したり、安直なマッチングをしたりすれば良いのでしょう。ただそうした支援を経営者が本当に望んでいるとは思えません。経営者が求めているのは進むべき道を検討するに当たって、一緒に思考し寄り添ってくれること。外からなんとなく眺めている人には、私と経営者のどちらが支援者なのかわからないかもしれませんが、まずは徹底的に話を聞き、そして一緒に思考することが何よりの支援だと思うのです。
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