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コラム

経費削減だけをして仕事をした気になってはいけない

業績が悪化すると経費を削減しようと考える人がいます。間違いではありませんが、経費削減は何かを解決してくれるものではありません。売上を増やすための施策とセットで実行して初めて意味のある取り組みです。

JR九州のトイレが苦手

東京から福岡に引っ越して感じたことの一つが「JRのトイレが汚い」というもの。掃除の回数が少ないのか、洗剤の量などを減らしているのか。率直に言って臭いが気になり続けていて、インバンド客が戻っている今、非常に印象が悪いのだろうなと勝手に心配しています。それほど鼻が強くない私が気になるくらいなので、他にも気にしている人がいそうなものです。

「聖域なくメス」 JR九州・西鉄、コスト削減に大なた
日本経済新聞 電子版 2021/6/22
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOJC148RS0U1A610C2000000/

こういった記事があったくらいなので、JR九州は鉄道事業のコスト削減に敏感なのでしょう。乗客が増える見込みがないのだから、安全に関わる以外の経費を減らせるだけ減らす。経営者として当たり前の判断なのでしょう。臭いトイレをそのままにしている企業に未来があるのか、興味深く観察しています。

経費削減だけをして仕事をした気になってはいけない

先日、とある会社でお話ししたときのこと。売上が振るわないので経費の削減に取り組んでいるそうです。役員報酬のカットにも手を付けていて、トップが決意を示して全社の意識を変えようとしているのでしょう。ただ気になったのが、売上増の取り組みについては具体的なアイデアが浮かんでいなかったこと。経費を減らしたところで売上を増やさなければ根本的な解決にはなりません。私からは店頭で集客するためのアイデアをお伝えするとともに、「経費削減だけでなく売上を増やす方策を考えるのが役職者の仕事」と強めの言葉を残しておきました。

かつての私の家業でも経費削減の必要性は常に付きまとっていました。売上が下がり続けていたので、少しでも出費を抑えることは当然に必要なことだったのです。問題はいつしか経費削減が「仕事」になってしまっていたこと。労使協議会の場(だったと思います)で、ある組合幹部からの「無駄な電気を切るなどして1円でも節約するべきだ」という発言を聞いた時は呆れてしまいました。1円2円の削減に思考を奪われるようになっては、じり貧状態からの脱却など覚束ないと感じたのです。もちろんこうした発言が出てしまうのも経営者の責任。経費削減に取り組まなければいけない状況だからこそ、前に打って出ることも必要だと考えるようになりました。

私が取り組んだことの一つは、新卒採用の再開。新卒採用は長い間取りやめていましたが、会社の文化を伝えるためには新卒採用の再開が不可避と判断し、銀行と調整した上で再開できることに。経費削減どころか人件費激増の取り組みです。売上が下がり続けていて、資金繰りにも窮するような状態でしたが「事業を存続させるために最低限必要な投資」としてお金を使いました。

JR九州の特急

始発駅から乗っても清掃が行き届いていないと感じることがあります

人件費も経営にとってはコストの一つ

少し話は逸れますが人件費も経営にとってはコストの一つです。抑えられるなら抑えたい項目ですが、従業員に利益を還元して生産性が高まるなら、必要な投資とみなして資金を投下することも選択肢になるでしょう。

ある経営者とお話ししたとき、業績が悪化しているにも関わらず、従業員から賃上げの要望が出てきたと教えてもらいました。私からしたら従業員から要望が出てきてしまった時点で、交渉の主導権は先方に握られてしまっています。残された選択肢は従業員の希望以上の賃上げを叶えてやるだけの一択です。経営側が主導権を握らなくてはならないのです。

希望条件に満たない賃上げをしたところで従業員の不満は溜まりますし、もちろん賃上げを拒否してしまうなど、最近の人手不足を考えれば取り得ない判断。そもそも財務の状況を適切に従業員と共有していれば、このような事態には陥らなかったと思われますが、従業員が動き始めてしまった以上、前向きに対応するしか選択肢はありません。

経費を削減するというと美しい話のように感じがちですが、本質的には時間を稼いでいるだけのことにすぎません。人件費の取り扱いについても同じ。人件費を抑えようと汲々とするくらいならば、先手を打って賃上げしてしまい、生み出す付加価値を増大させるように導けばいいのです。これこそ経営者の創造力が問われる局面です。

手元のお金を増やすためには売上を伸ばす施策が絶対に必要。お金を節約するという美しい行為に惑わされることなく、事業を存続させるための前向きな一手を打ち出す必要があります。


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