地方中小企業の経営者が感性を磨く方法
簿記やマーケティングの知識も重要ですが、そもそも経営者としての感性を持たなければ事業の舵取りなど覚束ないはず。カタカナ語を駆使したピッチが得意な自称経営者が、経営の泥臭い現場を受け入れられずに苦労しているのは何度も見聞きしていることです。地方中小企業の経営者が企業経営に必要な感性を磨く方法について書いてみます。
事業領域外のトピックに耳を澄ます
あるセミナーを企画したときのこと。これはという経営者に直接声がけし、参加を検討してもらうようにお願いしました。この時、経営者の対応は真二つに分かれました。せっかく声を掛けられたのだからと詳しい内容を検討せずにすぐに参加の返事をくれる経営者と、自社と関係なさそうな内容だからと参加を見合わせてしまう経営者です。
予定が合わないので参加してもらえないのならばそれまでですが、自社に直接関わりが無いからといって情報収集をあきらめようとするのはもったいないこと。一見、関係なさそうなトピックから商売のヒントが得られることはよくあることで、自らその芽を摘んでしまっているように思うのです。
私が講演などで中小企業支援事例をお伝えする時にも同じことが起きます。「自社と同じ業種の事例ではないから参考にならなかった」「今度は〇〇業に特化したセミナーをしてもらいたい」などと事後のアンケートに記入してもらうことがあります。中小企業支援事例から何を学び取るかは最終的に参加者に委ねられること。私は事例の表面部分だけを見てもらいたくなくて、売上アップに至った根本的な部分を感じ取っていただきたいのですが、一部の方は事例の業種が自社と違うというだけで目と耳を閉ざしてしまうのです。
地方中小企業の経営者は自社の事業領域外のことにも積極的に目を向けてもらいたいもの。外の世界を探索することで、自社の事業領域の核心に生かせる何かを得られると思うのです。
インプットとアウトプットのバランスを意識する
本や新聞を読むことは非常に効率の良いインプット手段です。情報の正確性が一定程度、担保されている媒体を本であれば1冊2,000円くらい、新聞であれば月5,000円くらいで手に入れることができるのですから便利な時代に生きていると感じます。
ここで気を付けたいのがインプットばかりでは経営に生かすことができないということ。何らかの形でアウトプットして、初めてインプットの効果を形にすることができます。私のようにブログを書いてもよし、社内報に寄稿してもよし、社内向けのポッドキャストで話してもよし。どんな手段でもよいのでアウトプットをして、経営者の思考を具体化してもらいたいのです。
家業で代表取締役を務めていた当時のことで後悔しているのが、従業員向けの日々の発信が足りなかったことです。その時々の経営状況は(ほぼ)隠さずに伝えていたつもりですが、私が何を考えているかを伝えることはほとんどしていませんでした。伝えるほどのものを持っていなかったと言えばそれまでですが、私が何を考えているのかを分かりやすく伝える必要があったと悔やんでいます。
「言わなくてもわかってもらえるはず」「わからないなら聞いてこい」「そもそも伝えたところで何も変わらない」というのは経営者の驕りです。日常業務を抱えている従業員と違ってインプットの機会に恵まれている経営者だからこそ、アウトプットをすることも責任の一つだと考えます。
芸術や伝統文化に触れる
人の心を揺さぶるものにはそれだけの「何か」が潜んでいます。経営者に必要な感性、特に創造力を磨くためには先人の生み出した芸術や伝統文化に触れることも一つの方法。
私は出張先で博物館や美術館によく足を運んでいました。ただ眺めていただけで人に語るほどの知識はまったくありませんが、数字に汲々としがちな役割から少しだけ離れて芸術などに触れるのは、建物の中の静寂とは対照的に刺激的なことでした。
経営者を務めていた当時から迷っていたものの、昨年ようやく始めたのが茶道です。茶わん屋なのだから茶道を嗜んでおけとは親に言われたことがあるような気もしますが、ついつい目先の面白いことに目が奪われて避けてきてしまっていました。ふと思いたって教室に通い始めたのがちょうど一年前から。そしてつい先日は正式に先生に入門させてもらうことになりました。
茶道と商売の世界が直接関係するなどとはまったく考えてはいません。ただ、人と接する機微だとか思いやる気持ちは茶道から学ぶことができるのではないかと考えています。
ポッドキャスト「茶わん屋の十四代目 商いラジオ」を毎週金曜日10:00に配信しています
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