コミュニケーションを円滑にする表現
お願い事をする、もしくは何かをしてもらった際に、ちょっとした言葉の使い方で反応が変化することがあります。どのような表現を用いるとコミュニケーションが円滑になるかを書いてみます。
「助かりました」
何かをしてもらった時に感謝の気持ちを明確に伝えるのは重要。私ははっきりと「〜してもらえたので助かりました」と表現するようにしています。「ありがとうございました」でも不足はないのですが、具体的にどこがどう助かったのかを伝えたい時には、文字通り、「助かりました」という言葉を選びます。
役職に就いたり、経験年数が長くなるとそれだけで周りの扱いも変わってくるもの。本人にとっては居心地がよくなるわけですが、そこにあぐらをかいてしまうと裸の王様への第一歩を踏み出すことになります。
私がまだ学生の頃の出来事です。家業の茶わんやで初めてのアルバイトをし始めた時、ある従業員が飲みに行こうと誘ってくれました。良くも悪くも元気な人で、上司に殴りかかったこともあるという伝説があったくらい。その従業員から言われたのが「裸の王様にならないようにしろよ」という言葉。彼なりに会社の現況に危機感を抱いていて、将来の私に向けてアドバイスをしてくれたのでしょう。私の中ではドキッとした感情と合わせて記憶に残っている言葉です。
素直に感情を表現してばかりでは経営者は務まりませんが、感謝の気持ちを表現するのは惜しまなくてよいでしょう。私の中では何かをしでかした時にさっさと謝るのと同じくらい、「助かりました」という言葉を発することは大事にしています。
「〜してもらえたらうれしいです」
何かを依頼されるメールなどをよくいただきますが、はっきりと何を希望するのかが書かれていないことがよくあります。
不愉快な気持ちになるのが「〜してもらいたいのですが」と終わる文章。なんとも尻切れトンボで、「で、続きは?他に何か言いたいことがあるの?」とモヤモヤした気持ちを抱え込んでしまいます。身内の人物であれば指摘するところですが、仕事上の付き合いなので偉そうに指導するわけにもいきません。言葉遣いで損をしている人だなぁと思いつつ、モヤモヤしています。
依頼事項があるのであれば、堂々と臆さずに伝えれば良いのです。ちょうど先日、ある経営者に協力してもらいたいことがあったので連絡をしました。冒頭に「○○さん、お願いがあります」と始めて、最後は「対応してもらえたらうれしいです」と締めました。関係性を築けている方なので返事は即座にあり、前向きに調整してもらえることになりました。
お願い事があるのであれば、「負担に感じるだろうから悪いな」「断られたらお互いに気まずくなってしまうな」などと考える前にさっさとこちらの希望を丁寧に伝えましょう。そして、依頼に応えてもらえたら「うれしいです」とはっきりと伝えればいいのです。
「教えてください」
わからないことをわからないと言えるのは当たり前のことですが、誰もが発することのできない言葉のようです。中小企業支援家として多くの経営者とお話ししていると、専門分野のことなどはわからないことだらけ。カタカナ語で返して誤魔化したり、わかったふりをしたりしても、その対応のいい加減さはあっという間に見抜かれてしまいます。
私は理解できないことがあれば「教えてください」と伝えるようにしています。人間は良くも悪くも教えたがりの側面を持っているので、「教えてください」と言って悪く取る人はほとんどいません。
もちろん、機微に触れる情報を教えてもらおうなどと考えるのはありえません。
ある料理研究家とお話ししていた時のこと。新しい商品を開発したというので試食させてもらっていました。とその時、事務員が「どういうレシピですか?」と尋ねてしまいました。料理研究家に新商品のレシピを尋ねるというのはありえません。私と話していた料理研究家もあきれたような顔をして口をつぐんでしまいました。即座に私が「企業秘密ですよね、失礼しました」と謝罪して事なきをえました。レシピを開発するのが仕事の専門家に対して、安直にレシピを尋ねるうかつさを事務員は想像できなかったのです。
知らないことを知らないとはっきり言うのは、人によっては勇気のいることのようです。ましてや教えてくださいとへりくだるのはさらにハードルが高くなります。でも素直に向き合えばいいのです。「わからないから、教えてください」、それだけのことです。
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