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コラム

中小企業支援事例の表面だけをなぞっても売上アップは実現しない

私が講演をする時に反応の良いコンテンツの一つが中小企業支援事例です。時間調整にも使うことにしていて、各事例をスライド1枚にまとめておき、端的に売上アップ事例を伝えるようにしています。

ただし、あくまで「端的に」伝えているのであって、お話しできるのは表面の部分のみ。事業者と共に取り組んだ事例に興味を持ってもらえるのはうれしいのですが、スライドですべてを伝えられているわけでないことは理解してもらいたいのです。

他社事例の表面だけをなぞっても同じ成果は生まれない

行政関係者とお話ししていて体感するのが、先進事例を血眼になって探しているということ。成功事例を探し出し、安直に移植したいと考えているのでしょう。同じような弊害が中小企業支援事例にも及んでいて、私の講演を聞いている経営者の中には事例のスライドばかりに注目する人がいます。

事例を見聞きした経営者に考えてもらいたいのは、他社事例を参考にしつつも、自社の真の強み、保有している有形無形の資産、資金繰りの状況などから推し量った「持ち時間」、などをまずは冷静に見極めること。そして、手にしているカードをどう組み合わせれば最善の手になりうるかを経営判断することです。他社事例の表面だけをなぞっても同じ成果が生まれないどころか、事業の足を引っ張ることになりかねません。

私が中小企業支援事例を伝えているのは、地方中小企業が成果を出した取り組みを紹介したいからなのですが、必ずしも簡単にコピーできる内容とは限りません。初回の相談から始まり、複雑なプロセスを経て事業者と共に取り組んだ結果が売上という成果に結びついているのであって、スライドで端的に伝えた事例の表面だけをなぞったとしても同じように成果を生み出すことは絶対にできません。

事例から学び取れることがあるとしたら、
・原状に満足することなく、勇気を持って一歩を踏み出せたきっかけ
・自社の強みをどのように生かして売り上げに結びつけたのか
・多くの競合が存在する中でどのように独自の立ち位置を築いたか
といったことに目を向けてもらいたいものです。

情報発信に関連する事例は特に気を付けてほしい

講演で伝えているのはあくまで事例をぎゅっと凝縮したエッセンスのみ。例えば、ある事業者がSNSを活用した情報発信で新規顧客を劇的に増やした事例があったとします。ではすべての事業者がSNSで情報発信をすれば、それだけで売上を増やすことができるかというと、そんなことはあり得ないわけです。

情報発信以前に商品のそもそものレベルが低ければ見込客から選ばれることはありません。情報発信したとしても数字やスペックを伝えるだけのコンテンツであれば見向きもされません。表面上は「Instagramを活用して新規顧客が激増」という事例であったとしても、そこに至る過程は事業者それぞれの特有の事情を踏まえたうえで進むべき道を決めてきているのです。

情報発信→SNS→売上アップ!というプロセスは多くの経営者の「売上をさっさと増やしたい」という心に響くパターンのようです。しかし実際にはそんな簡単な魔法の杖などは存在しません。情報発信で顧客リストを増やしている事業者がどれだけ手間と時間を掛けているかは、安直に魔法の杖ばかりを探している事業者には想像がつかないのでしょう。

情報発信は見込客との関係性を築くために欠くことのできない手段です。ただし、闇雲に取り組んで早期に成果が生まれるものでもありません。事例の水面下に潜んでいる本質的な部分に思いを巡らしてほしいものです。

スマホで撮影する人

スライドを撮影しようとする人を見かけると何だかなぁと感じます

又聞きの支援事例を再現したいと願う経営者

中小企業支援事例を講演などでお伝えすることがあります。その際に撮るなと言っているのにスライドを撮影しようとする人が必ずいます。もちろん、資料は匿名化したり、事業者が特定されないよう内容を調整したりと差しさわりが無いように処理していますが、それでも資料の撮影はNGとしています。以前に某議員に転載・転用不可の資料を公表されたことがあったためです。

このあたりの権利関係に気を配れない人というのは率直に言って、何をやってもダメな人なのでしょう。そもそもプロジェクトを率いていくセンスに欠けていると思わざるを得ません。

某議員の場合は支援者に私が作成した資料をばらまいていて、資料を手に入れた事業者から「同じように売り上げを増やしたい」と連絡が入りました。興味を持ってもらえたのはありがたいのですが、「転載不可」と明記されている資料を堂々と私に見せてくるのもどうかと思います。

事例の表面部分しか眺めていないその経営者は、私が具体的なアイデアをいくつか提案しても、思い描いていた「魔法の杖」を得られないと思ったようで、その後、いらっしゃることはありませんでした。


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