響く自己紹介、響かない自己紹介
中小企業支援家は自己紹介をする機会の多い仕事です。自己紹介をきっかけにその後のご縁を広げるためには、どのように言葉にすれば良いでしょうか。
響かない自己紹介
先日、打ち合わせで自己紹介をする場面がありました。ある専門家の自己紹介があったのですが、参加者の頭に「???」と浮かんだのが目に見えるようでした。
「名前は○○です」「○○大学を出ています」「今はどこどこに勤務しています」といった具合で「え、それで?」と逆に皆さんの注目を集めていました。わざわざ専門家として参画しているのに、具体的な話があるわけでもなくそのまま終了。参加者の間では専門家として認知されることはなかったように感じました。
彼あるいは彼女の自己紹介が失敗に終わった要因は、つきつめれば、専門家と称しているのに何が専門であるかがわからなかったこと。「何がご専門なんですか?」と尋ねられても、ズバッと答えることはなく、うやむやのまま終了してしまいました。せっかく自分を知ってもらえる時間をもらえたのに、もったいないことです。
またある経営者の自己紹介を聞いた時のこと。専門用語が多くて、特定の業界の人にはわかるのかもしれませんが、私にはさっぱり強みがわかりませんでした。経営者であるからには応援してくれる人を増やすのも仕事の一つ。中学生レベルでもわかるくらいの解像感で、自分の強みを説明できるようにしておきたいものです。
私の自己紹介
私の自己紹介は簡単。一番シンプルなバージョンは「江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した経験があり、現在は中小企業支援家として売上アップを実現するためのお手伝いをしている」というもの。持ち時間に応じて具体例などを肉付けして時間調整していきます。
反対にあえてつまらない自己紹介をしようとすると、「家庭用品の会社に務め、その後、産業振興関連の仕事をしています」という感じ。同じ経歴であっても印象がだいぶ違うはず。
自己紹介はダラダラと話しても相手に刺さりません。ズバッと聞き手に刺さるように自分の独自の強みを届けてやる必要があります。
自分のストーリーを作る
人は皆自分の人生を当たり前のものだと思っていますが、他者から見ればそんなことはなく、どれも興味深いものです。仕事の場で自己紹介をし、その後のご縁に繋げようとするのであれば、自分の人生をストーリーとして伝えることで相手に興味を持ってもらえるでしょう。
特に重要なのが、挫折や失敗経験を隠さず伝えることで、等身大の自分を理解してもらえることに繋がります。世の中にはキラキラとした成功体験らしきものが溢れていますが、率直に自分の困難な経験を語ることができる人は少ないです。多くの人が隠そうとすることを自ら語ることは、マイナスの印象どころか好印象を与えることがほとんど。
このことに私が気づいたのは、家業を投資ファンドに事業譲渡した後に初めて取材を受けることになった時。すでに代表取締役は退任しており、旧会社の清算は弁護士に一任している状態で、実質的にやること、やりたいことがなく、やや呆然としている時期でした。そんな時に日経ビジネスの記者さんから取材を受けることになり、会社を倒産させた私のような者の経歴でも興味を持ってくれる人がいるのだと知りました。
またその後、中小企業支援家に転身したときも同様です。行政の事業相談窓口のポジションに手を挙げた際、履歴書などに加えて家業にまつわる資料を添付して応募しました。後から聞いたところによると、これらの資料は私の経歴に興味を持ってもらうための役に立っていたようです。
自己紹介というと履歴書のように事実だけを淡々と伝えてしまう人もいます。それでは自分自身の個性を十分に伝えることができるか疑問です。自分の歩んできた人生を当たり前のものとせずに、興味を持ってもらえるようにストーリーとして伝えることができれば、同じ自己紹介であってもその後のご縁につながる確率は格段に上がります。
まずは自分の歩んできた道を棚卸しし、真の強みと掛け合わせることで独自の立ち位置を築くことが可能になります。自己紹介を聞いてくれた人から「あなたのことに興味があります、もっと教えてください」と言われたら大成功です。
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