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コラム

せっかく創業したのであれば安直に株式を手放してはいけないという話

中小企業支援業界に身を置いていると、安直に株式公開を勧める風潮に違和感を覚えます。株式会社であるならば、安易に株を手放してはいけません。66.7%は確保しておきましょう。

家業の事業譲渡がうまくいった要因の一つ

家業を事業譲渡する際の懸案事項の一つが株主総会で承認を得られるかどうかでした。特に金融機関が心配をしていて、事前に株主の了解を取り付け、票読み結果を報告するように強く求められました。ただ、私は全く心配していませんでした。なぜなら個人筆頭株主は私で、さらにごく近い親族と金融機関の持ち分を合わせると66.7%を超えていたから。仮に少数株主が声を上げたとしても、特別決議を通すのに何の問題もなかったのです。

株式会社を経営するのであれば、株主総会をコントロールできる株数を持つのはすべての大前提です。株式を持たずに代表取締役などに就いたとしても、実質的な経営権を握ることはできません。肩書きだけで判断すると、自らの置かれている立場を見誤ることになります。

肩書きに惑わされてはいけない

実際に見聞きした事例です。

私が事業譲渡した後、投資ファンドが立ち上げた新会社では百貨店OBを経営者として迎えました。老舗百貨店を定年前に退職した人々が代表取締役社長以下、枢要なポジションに就くことになったのです。

その後しばらくして起こったのは、株主である投資ファンドと経営陣との軋轢。雇われる立場しか経験のなかった彼らが、株を全く持っていないのに会社のすべてを握ったと勘違いし、投資ファンドとの関係性が悪化したのです。私も同席していた打ち合わせの場で、投資ファンドの社長が経営陣に苦言を呈していたのを目撃したことがあります。株式会社の仕組みを理解していない人々を経営に当たらせているのかと驚きました。

また、私がある事業会社からスカウトされた時の話です。典型的なオーナー会社で、株式は親族だけで保有しているとのこと。後継者の息子が成長するまでの間、経営者を務めて欲しいと声を掛けてもらいました。結果から言うと、この案件は丁重に辞退させてもらいました。好きに経営して構わないと言ってもらったのですが、株を持たないのであれば実質的に雇われる立場に身を置くことになります。オーナー経営者の下で働くつもりはなかったのでお断りさせてもらいました。

株券

株式を持つ意味を正しく理解しましょう

ベンチャー企業に安直に株式公開を求めるのはおかしい

中小企業支援業界に身を置いていると様々なセミナーなどの案内を目にすることがあります。

以前から目につくのがIPOセミナーなど上場を促すような内容のもの。創業したのであれば株式を公開して創業者利益を得ましょう、などと啓発するセミナーです。株式を公開するのが、当たり前のゴールのように語られることに私は違和感を持っています。創業した大事な会社の株式を保有し続けるのも選択肢の一つのはず。ただ、「株式を持ち続けましょう」などという啓発はまったく耳にすることがありません。仕組みはいろいろと取り得るのでしょうが、株式を手放せば手放した分だけ経営権は希薄化します。ましてや1/3超を外部に託してしまうと特別決議を独力で通せなくなります。

また同じように耳にするのが、創業したのであればベンチャーキャピタルに出資してもらいましょうという風潮。ベンチャーキャピタルは、創業まもない企業に出資して株式を保有し、その出資先が株式公開することで利益を得ることを目的としています。「出資してもらおう」というと聞こえは良いですが、株式を手放す本質的な意味については語られていないように感じます。創業まもない社長が「VCにお金を入れてもらう」などと話していると、何のために起業したのだろうと疑問に思うことがあります。

ある会社は創業20年近くになりますが未だに自称ベンチャー。よくよくお話しを伺うと、すでに株式の66.7%超は外部の企業に握られているとのこと。実質的に外部企業の一事業部門に成り下がっているわけで、ましてやベンチャーなどと言える状況にはありません。代表取締役に引き続き就いていると言っても、雇われる立場と同じわけで、実質的な経営権はすでに失われているのです。

株式会社にとって株式は権力の源泉。株式が会社そのものと言い換えてもいいかもしれません。上場だとか出資という言葉の響きに惑わされずに、株式を持ち続けるというのも立派な選択肢の一つ。資本政策は慎重に検討しましょう。


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