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コラム

事業が窮境に陥った時に求められる従業員との関係性構築

池袋西武のストライキが報じられています。
労働組合の動きに対して、親会社と経営は粛々と事業売却を進めている模様。
事業が窮境に陥ってしまった時に、
会社と従業員はどのように関係性を構築すれば良いのでしょうか。

家業を事業譲渡しても労使関係は紛糾しなかった

私が江戸時代から続く家業を投資ファンドに事業譲渡した際、
従業員の全員が新会社に移籍することはかないませんでした。
幹部職以外の約7割が新会社に採用されるに留まりました。
それでも従業員説明会やその後の労使交渉が紛糾することはなく
(上部団体が出てきて形ばかりの団体交渉はありましたが)、
事業を譲り渡す最後の日まで営業を継続することができました。

従業員説明会の日、ファンドの社長から言われた言葉が記憶に残っています。
「こうした説明会は何度も見ているが、紛糾しなかったのは初めてだ」
と言われたのです。
従業員から突き上げられたり、土下座をしてお詫びをするといった場面はなかったのです。
心の底から納得してくれた従業員はいなかったと思いますが、
彼ら彼女たちが憤慨したり、ましてやストライキなどに訴えなかった要因はなんだったのでしょうか。

私なりに考えてみると、
事前に想定していた「最悪」ではなかったからでしょう。
最悪とはつまり資金繰り破綻し、ある日突然、事業が消え失せてしまうこと。
当然、雇用も失われてしまいます。
私は事業計画や決算を説明する際に
会社の置かれた状況は可能な範囲ですべてを伝えるように心がけていました。
数字で説明していたので従業員も状況を正しく理解してくれ、
投資ファンドに事業譲渡することになっても、全員が移籍できなかったとしても
「最悪の状況ではない」と考えてくれたのではないかと思っています。

組合員のコメントに感じた違和感

池袋静まる「街の顔」 西武本店スト 組合員らビラ配り
2023/8/31付日本経済新聞 夕刊
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO74036610R30C23A8CE0000/

この記事によると組合員は
「西武池袋本店を守ろう」
「事業が存続の危機にあり、抗議の意味でストを実施している。ご迷惑をかけて申し訳ありません」
と話しながらビラを配っている様子。
ここだけ読むと労使の情報量に差があるので、
事業譲渡に至ってしまった状況を労使が適切に共有できていないのではないかと思います。

将来像を描けなくなったから900億円の債権を放棄してでも売却しようとする経営、
働く場である店舗と自分たちの雇用を守ろうと売却に反対する組合。
どこかで論点がかみ合っていないようです。
売却に反対したからといって、すでに現経営者は経営再建を断念しているのですから。

組合に経営と同じだけの情報量があれば、
事業を存続させることは困難であると理解してくれるはず。
ましてや「事業が存続の危機にあるからストを実施する」などという
本末転倒なコメントは出てこないことでしょう。
ストを実施して事業の持続可能性が高まるのであれば、
いくらでもストを実施してくれと経営は考えているかもしれません。

夜の池袋駅前

今の池袋西武は昔の池袋西武とはまったくの別物です

経営と組合の情報量を同じにして目線を合わせる

私が労働組合と話すときに心がけていたのは可能な限り情報をさらけ出すこと。
もちろん、どうしても伝えられない情報もありますが、
事業の置かれた状況を適切に把握するための情報は
出し惜しみせずに定性的なものも含めて開示していました。

労働組合へ開示された情報は全組合員に伝えられるわけなので、
後から知らなかっただとか、分からなかったなどと言い訳は許されません。
下手に隠してしまうよりも、
情報量を同じにしてしまう方が経営にとっては手間が省けるのです。

事業が窮境に陥っている経営者と話すと
苦しい状況を従業員へ共有することに抵抗を覚える人が多いようです。
「退職者が発生したらどうしよう」
「取引先に情報が洩れたらどうしよう」
と悪いことばかりを妄想してしまうのでしょう。

私は悪い情報ほどさっさと共有すべきだと考えています。
事業を営むということは多くの利害関係者に支えられて初めて可能になること。
その利害関係者と関係性を構築するには、情報量に差があってはなりません。
特に従業員は会社を支えてくれる一番の存在です。
窮境に陥っている時こそ、
経営と目線を合わせてもらうための適切な情報を提供しましょう。


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