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コラム

経営者保証をしていた時の気持ち

地方中小企業の経営者をしていた当時に
取引金融機関からの借り入れに対し経営者保証を提供していました。
その当時にどんなことを考えていたかを書いてみます。

万一の事態になった時の備え

家業の代表取締役に就任して最初の仕事の一つは、
会社の借入金に対する経営者保証の提供でした。
取引金融機関が7行庫もあったので
印鑑証明書を何通も取り寄せ、
実印を押す作業を繰り返しました。

新たな借り入れをしたり、
契約を変更した際にはまた押印。
その度に銀行担当者がやってきて、
契約内容を説明してくれた上で署名と押印を求められます。

ある時、私が銀行担当者に尋ねたのは
「ほとんど資産のない私が、
何十億もの借入金に対して経営者保証を提供する意味はあるのか」
という素朴な疑問でした。

銀行担当者の答えは
「万一、経営破綻した際に、
責任の所在を明らかにするために必要です」
というものでした。

改めて経営者保証の意義を説明されると、
将来に対する漠然とした不安と共に、
事業の最終責任者は自分なのだなと改めて自覚したものです。

「責任を取る」という言葉がありますが、
雇われる立場の人が取れる責任など大したものではありません。
辞めたところで別の人を採用すれば良いだけのこと。
事業を営む組織の中で
厳密に責任を取ることが可能なのは経営者のみです。

会社の前の信号が赤くなるのも経営者の責任なのですから、
この世で起こるすべてのことを
「知らなかった」だとか
「想定していなかった」などと言い訳することはできません。
大きな責任を負う代わりに、
事業運営上の大きな裁量を手にすることができるのです。

サラリーマンの時に大型二種免許を取得した理由

まだ結婚する前のことです。
ふと思い立って、教習所で大型二種免許を取りました。
バスの運転手をするために必要な免許です。

当時は法人外商の部署で働いていて、
ボーナスが満足に支給されないことや、
早期退職制度に応募した先輩が何人も辞めていく様子を見て、
「万一、家業が無くなったらバスの運転手をしよう」
と免許を取っておくことにしたのです。

その後、代表取締役に就任し、
経営者保証を提供するようになると、
「もし経営から離れることになればバスの運転手になろう」
あるいは社会保険労務士試験にも合格したので、
「社会保険労務士事務所を開業しよう」
と現実逃避のような思考をすることがありました。

経営が破綻した際に責任を取らねばならないなら、
当然、経営者を退くことになります。
食べていくための次の仕事の候補が思い浮かぶというだけで、
ほんの少し気持ちが軽くなったのを覚えています。

実印と朱肉と印鑑マット

最近は実印を押すことがすっかり無くなりました

投資ファンドに事業譲渡した際の責任の取り方

代表取締役を5年務めましたが、
売上のV字回復などまったく実現することができず、
最後は投資ファンドを探し出して事業譲渡するのが精一杯でした。
当然、それまでの負債を投資ファンドが引き継いでくれることはありません。
長年支えてくれた取引金融機関にはお詫びをし、
一定の負担をお願いすることになりました。

となると当然、経営者保証を提供しているので、
会社に代わって私が借入金の返済をする必要に迫られます。
ところが私には資産らしい資産はありません。
自己破産をして誠意を示すことしかできそうにはありませんでした。

結論を言うと、
私も父も自己破産を求められることはありませんでした。
投資ファンドへの事業譲渡後も、
銀行口座は維持していますし、クレジットカードも使っています。
銀行の融資を受けることもできました。
社会生活を営む上で不便を感じるようなことはまったく起こりませんでした。

私に関しては取引金融機関から
「会社から多くの報酬を得ていたこともなく、
就任時にはすでに相当程度、事業環境が悪化していた」
ということで何かを求められることはありませんでした。

経営破綻後には自己破産してでも責任を取らねばならない
と自分に言い聞かせていたのにも関わらず、
いざ実際に会社が終わりを迎えると拍子抜けしてしまいました。
あの経営者保証の書類に何度もついた実印は何だったのかと。

地方中小企業の経営者は孤独なもの。
対外的には強そうに振る舞っていても、
ふとした時に見せる表情や言葉は正直です。
中小企業支援家に転身してからは、
何人もの経営者からどす黒いまでの孤独を垣間見たことがあります。

経営者保証のことなどを考えていると
夜も眠れなくなることがあるかもしれません。
でも、一度や二度、経営に失敗したところで人生は続きます。
また実際には多くの経営者が事業に失敗し続けています。
実印を押印するとそれだけで気が沈むかもしれませんが、
視線を上にし未来を見つめましょう。
現状維持に甘んじることなく、挑戦し続けることで活路は拓けます。

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