地方中小企業が持続可能性を高めるための踏み台になります

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コラム

何事にも全力を尽くさない働き方もアリだと思っている話

息子の学級通信を眺めていたら「何事にも全力を尽くしましょう」との言葉がありました。中学生ならともかく、地方中小企業の経営者にはぞっとするフレーズです。
かつて家業の代表取締役を務めていた時のことを思い出してみます。

経営者として全力を尽くしていたこと

仕入先さんとのコミュニケーション

産地を訪問して商社、メーカーさんとお話ししたりすることに注力していました。家業はメーカー機能を持たないビジネスモデルだったので、仕入先さんに商品を継続して納めてもらうことが生命線。業績が窮境に陥っていたので、積極的に対話することで関係性を維持しようと腐心しました。

従業員に業績を伝える

窮境に陥っていたからこそ、(ほぼ)すべての財務に関する情報を開示して、状況を正しく理解してもらうことが重要でした。将来に対するぼんやりとした不安が蔓延してしてしまうと、仕事に手が付かなくなると考えたからです。事業計画は銀行に提示するだけでなく、従業員向けにも説明会を開催し進捗を伝えていました。

銀行と丁寧に対話する

私が事業承継した時点で、実質的に債務超過状態。一方で銀行から支援を受けられないと、もはや資金繰りは成り立たない状況でした。実務は従業員に任せていましたが、要所では私が自らの言葉で銀行と対話するように心がけていました。

経営者として全力を尽くさないと決めていたこと

社長の椅子を守ること

自分が社長を続けることと、事業を存続させることは必ずしもイコールではありません。最優先は事業を存続させること、つまり茶わん屋として商売を続けることと定めました。そのためには私が経営者を続けることには拘りませんでした。もちろん家業であったので14代目として商売を続けたい気持ちは持っていましたが、それよりも重要なのは事業を存続させることだと考えました。

創業家の利益を守ること

私と父が個人保証をしていたり、創業家の資産が担保に差し出されていることはもちろんとても気になることではありました。しかし、個人保証云々が「公」か「私」のどちらであるかというと後者です。事業を存続させるためには創業家の利益は忘れるようにしていました。事業譲渡に至る局面でも生々しいやり取りは各所となされましたが、そのほとんどは父に任せてしまっていました。

社外の横つながりを作ること

誘われたりしたこともありましたが、社外の経営者団体等に参加することは避けていました。余裕があれば外部からの刺激を得られる貴重な機会になったのでしょうが、家業の経営にはそんな余裕は失われていました。特定の団体に加入して社外の活動に意欲的な一部の経営者を見ていると、地に足がついていないように思われたことも事実。自分の会社だけに目を向けることにしました。

全力疾走する犬

全力を尽くさないポイントを決めておく

「全力」は持続しない

高校ボート部でひいひい言いながら艇を漕いでいたせいか「私の全力はせいぜい4分しか続かない」というのが身に染み込んでしまっています。さらに言うと、無酸素運動はスタート直後のみで、その後は有酸素運動。結果を出すためにどのように艇を進めるかが重要で、最初だけ飛ばしたところで後でダレてしまっては本末転倒です。

地方中小企業の経営者に話を戻すと、これと決めたことだけは一歩も譲らずに取り組み、その他のことは割り切ってしまう判断も時には必要。むしろ「やらないこと」「手を抜いてもよいこと」「全力を尽くさないこと」を決めることにより、注力すべきことが浮き彫りになるはず。すべてのことに全力で取り組むなど現実的ではないのです。

経営者が「全力を尽くさない」と公言すると、言葉尻を捉えて眉をひそめる人もいるかもしれません。でもそれは地方中小企業の経営者の仕事を知らない人。この世の中で起こる全てのことは経営者の責任なのだから、何にどう注力するかは経営者が決めること。朝ゆっくり出勤しても構わないし、机で新聞をじっくり読んでも構いません。全ては経営者が決めることです。

私は中小企業支援家として独立した今も「やらないこと」を決めて活動しています。自由に何でもできる立場であるからこそ、手続き業務は手がけない、時間や情報を搾取する人とは付き合わないなどとマイルールを定めることが重要だと痛感する日々です。

地方中小企業の経営者は経営判断をし続けるのが仕事です。判断しなくても良いことを作り出すことで、本来注力すべきことにより精緻に取り組みましょう。

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