自分の中での「負け」を定義する
世の中、成功している人ばかりが目につきますが、
同じ数以上に苦労や困難に見舞われている人がいます。
成功ばかりが人生ではないわけで、
負の局面をどのように乗り切るかがその後の人生を左右します。
窮境に陥った家業の経営で絶対に避けねばならなかったこと
家業の代表取締役を5年間務めました。
前半は売上をV字回復させようとしたものの、
既に実質的に銀行管理下に置かれていて、
事業計画という名の再生計画をなぞるのに精一杯。
その再生計画もすべてを着実に履行することができず、
後半はいかに「事業」を存続させるかに腐心しました。
私の中で絶対に避けなければいけないと決めていたのは
突発的な資金繰り破綻です。
資金の出と入りを管理しきれずに、
ある日突然、支払い能力を失うことだけは何としても回避したいと考えました。
理由はシンプルで、仕入先さんに迷惑を掛けてしまうから。
メーカー機能を持たない家業は多くの商社とメーカーに支えられていて、
その家業が資金繰り破綻をしてしまうと連鎖倒産を引き起こすことは必至でした。
会社はいつか無くなってしまったとしても、
事業を存続させるには供給網に傷を付けることは許されませんでした。
一方で拘らなかったのは経営権の所在です。
家業ではありましたが、
いつまでも創業家が経営権を保有することには拘らず、
会社ではなく事業を存続させることに注力しました。
こうして優先順位を付けることによって、
取引金融機関、つまり銀行も支援の体制を組みやすくなったのではないかと思います。
ある時、メイン銀行の役職者に言われたのが、
「社長が腹を括るのであれば、当行も最後まで支援します」
という一言です。
もし私が、
「何とかして事業を存続させたいが、私は社長を降りたくない」
「外部のスポンサーを見つけて資本を入れたいが、
一定割合以上の株式は渡したくない」
などとゴネいていたら家業の軟着陸は果たせなかったことでしょう。
大きな目的(=事業の存続)のために、
小さなこだわりをすべて捨てたことで、
弱り切っていた家業の力を集中させることができ、
またその姿勢を銀行に理解してもらうことができました。
※もちろんその背景には番頭格の専務の奮闘や
最後まで商品供給に尽力してくれた仕入先さんの存在があります!
あれもこれも実現させることができないのが経営で、
特に窮境に陥った家業を存続させるというミッションには
優先順位の可視化が非常に有効でした。
新事業に取り組むのであれば撤退ラインを定めよう
中小企業支援を手掛けていると、
事業の撤退ラインを定めずに突き進み、
大きな損失を発生させてしまっている事業者を見かけます。
そうした人々は成功像ばかりを追いかけてしまい、
失敗することをまったく想定していないのです。
特に創業を志している人に多い印象です。
ある事業者は新商品が好評で初期ロットの完売に成功。
ところが第二弾の新商品で在庫を多く抱え込んでしまい、
初期ロットで生み出した利益をすべて失ってしまいました。
当初は先回り営業を着実に実施していたのに、
第二弾ではその努力を怠っていたようです。
あれだけ受注販売に徹しましょうとお話ししていたのに、
私も残念でなりませんでした。
何より事業者自身が「先回りドブ板営業」の効果を体感していたはずで、
小さな成功に目がくらんでしまったのでしょうか。
もしこの事業者が、
事前に撤退ライン、つまり「負け」を定義していたら、
その後の商売の進め方は変わっていたかもしれません。
例えば、
「生産数の8割を事前に受注できなければ発注しない」
「初期ロット購入者のリピート率が○割に達しなければ発注しない」
といった具合です。
また賃貸物件を店舗として活用している事業者に多いのが
初期投資回収のシミュレーションを満足にできていないことです。
こだわりの内装に費用を多額に費やしてしまい、
その費用をどの売上でどれだけの期間で回収するかを考えていません。
さらにはいつまでに初期投資を回収できなければあきらめるという、
撤退ラインを自分の中で握れていないことが多いのです。
撤退ラインを持てていないとどのようなことが起こるかというと、
ずるずると追加投資してしまい、損失を拡大させてしまいます。
結果、貯金を食い潰し、無駄な借り入れを増やしてしまい、
次の挑戦に悪影響を及ぼすことになってしまいます。
自分の中での「負け」を定義する
経営に携わるのであれば、
成功像ばかりを思い描くのではなく、
撤退ライン、つまりどうなったら「負け」とするのかを
自分の中で握っておくことが必要です。
条件は人それぞれ。
自分で明確な一線を事前に引きましょう。
「まだ挑戦できる」「もう終わり」というせめぎ合いは
無思考状態に陥ると前進一択に陥りがちです。
勇気を持って「もう終わり」と宣言し、
次の挑戦に向けて物心ともに余裕を残すためにも、
自分の中での「負け」を定義しておきましょう。
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