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コラム

夜空に星を打つ

連休中なので最近考えていることについて
つらつらと書いてみたいと思います。

家業の事業譲渡はギリギリの軟着陸だった

かつて家業の代表取締役を務めていた至らなかった自分は
社内外の利害関係者に助けてもらって、
何とか最低限の役割を果たすことができました。
それも本当にギリギリの軟着陸であったわけで、
今でもたまに夢に見て冷や汗をかき、目を覚ますことがあります。

資金繰り予測を元にした事業譲渡完了までの残り時間、
自主再生計画を断念した後の金融機関からの信用、
売上が下がり続ける中での仕入先さんからの支持、
いずれもがぴったりと2015年3月末に向けてすり減っていく状況。
なんとか投資ファンドへの事業譲渡を実現して
事業の存続を成功させたものの、人生であれだけの切迫感を味わったのは
後にも先にもあのときだけでした。

最後まで支えてくれた取締役会メンバーや幹部、
店頭で接客し続けてくれた従業員、
商品を供給し続けてくれた仕入先さんには
今でも感謝の気持ちしかありません。
本当にギリギリの軟着陸でした。

夜空に星を打つのが経営者の仕事

その後、中小企業支援家に転身して7年目。
さまざまな経営者とお話ししていると
成功している方に共通している資質というのが見えてきます。
間近で勉強させてもらえるのは中小企業支援家の特権でしょう。
ましてや自分も地方中小企業の経営をほんの少し経験しました。
経営経験のない専門家とされる人々と比べると、
経営者との対話から想像できるものが違うのは当たり前。

成功している経営者に共通しているのは
将来の成長に向けて布石を打ち続けていることです。
当然、成長への強い執着を持っているわけで、
目先の事象に(過度に)囚われずに先を見通そうとしています。

先日、息子のために録画していた宇宙関連の番組を観ていて
(Eテレの宇宙関連の番組はすべて予約しています)、
ふと思いを馳せたのですが、
経営者の仕事は夜空に星を打つような作業です。

最初は誰にも気付かれない地味な仕事なのですが、
気付いた時には星座を形作っているようなイメージ。
一緒に仕事をしている人々も当初は意味がわからず、
夜空にオリオン座が現れてから
「あぁ、このために星を打っていたのか」
と気付いてくれるような感覚です。

重要なのは星を打つという孤独な作業に耐えられるかどうか。
目先のことしか考えられない人からしたら、
地表に落ちている小銭を拾った方が確実です。
落ちている小銭なんていつかは拾い尽くしてしまうのに。

周りの誰にも気付いてもらえない、
数年後にようやく姿を見せることのできる事業に
どれだけ覚悟を持って取り組むのか。
事業を成長させるという強い執念がなければ、
到底、手を付けることはできないでしょう。

そういえば、
中小企業支援家の仕事も「星を打つ」という点では似ています。
一見遠回りに思われる地道な行動なくして、
事業者の売上アップ事例を生み出すことはできません。
突き詰めれば事業者との関係性を構築することが必要なわけで、
SWOT分析やVRIO分析などをいくらしたところで、
地に足がついていない支援は支援にならないのです。

夜空に浮かぶオリオン座などの星座

強い光を結んで星座を作る

事業の成長のバトンを繫ぐ

家業の歩みをまとめた資料を読み返すと、
かつては斬新な商売に次々と取り組んでいたことがわかります。
京都の茶わん屋が東京に進出し、
全国の百貨店と商売をするようになるまでには
現状をよしとせずに挑戦し続ける進取の気性に溢れていたのでしょう。

高度成長期を経て、1990年頃までのバブル期には
中元、歳暮、引き出物などのギフトで稼ぐことを知ってしまいました。
決して楽をして商売をしていたわけではないのでしょうが、
マクロな経済動向や人口の変化を読み取っていれば
決して永遠に持続可能な商売だとは考えなかったはず。

この頃から家業の経営者は私も含めて、
「星を打つ」作業を怠ってしまったように思えます。
すぐには影響は発生しなくても、
その後、10年、20年と業績は悪化し続けます。
「もしあの時からあの事業に取り組んでいれば」
などと考えても気付いた時には時間も資金も残り少なくなっていました。

こうした家業の歩みを知り得る立場で
さらに最後の軟着陸の現場に立ち会った私としては、
経営者に何より必要なのは成長への渇望だと思うのです。
どんなに成功した事業であっても固執することなく、
事業の成長のバトンを繫いでいく覚悟と言い換えればいいのでしょうか。

家業を離れて8年が過ぎました。
新しい事業の構想を練りつつある今、
目先の売上をどう作るかにはあまり興味がなくて
(稼ぐだけだったら夢がないですし)、
どのように星を打っていけば、
星座を形作ることができるかを考えています。

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