契約書に目を通さない地方中小企業の経営者
年度初めは様々な契約書に署名・押印することがあります。
契約書にそもそも目を通していない
地方中小企業の経営者とお話ししていると
事業の存続に関わる契約書に
十分に目を通してない人に遭遇することがあります。
事務所の建物賃貸借契約書
副業人材を利用する際の業務委託契約書
従業員との雇用契約書
など。
例えば事務所の建物賃貸借契約書であれば、
契約期間や再契約の有無、原状回復の取り扱いなど
資金繰りにも大きく影響する事柄が記載されています。
よく読まずに署名・押印してしまうと
想定外の事態に遭遇することになりかねません。
ある経営者の知人とお話しした時のこと。
事務所を賃貸して長く利用していたが、
急に退去を求められてしまって困っているそう。
契約書の内容をよく確認するように促したところ、
「定期」建物賃貸借契約だったそうで、
契約期間の満了により、自動的に契約が終了する内容でした。
それまで何回か契約更新をしていたのは、
あくまで申し出に基づいて大家が再契約を認めていただけ。
いよいよ大家が再契約をする気がなくなり、
契約期間の満了を迎えてしまっていたという話でした。
もちろん争えば交渉の余地はあるのでしょうが、
基本的には「定期」建物賃貸借契約の内容を把握していなかった
経営者の油断は褒められるものではありません。
署名・押印する前に時間を掛けて
契約書(案)の内容を検討することはもちろん、
現在、締結している様々な契約書を
改めて確認することをお勧めします。
自社に関係する法令にアンテナを張っていない
また別の経営者から聞いた話です。
親戚の知人を従業員として雇用していたそう。
(私からしたら「知人」という時点で警戒します)
ところが雇用契約書や労働条件通知書を作成しておらず、
あるタイミングで従業員と争いになってしまったとのこと。
すぐに解決することが出来たそうですが、
「まさか親戚の知人と揉めてしまうことになるとは」
と経営者はショックを受けている様子でした。
このケースは経営者が採用時の手続きについて
法令の定めるところを把握していなかったのが原因です。
特に労働条件についてお互いに同意はしていたものの、
書類を残しておかなかったためにトラブルになりました。
例えば労働条件通知書とは
労働基準法第15条、労働基準法施行規則第5条により、
賃金や労働時間、休暇などを記載し、
使用者から労働者への交付が義務付けられている書類です。
こうした書類があることを経営者は知らなかったそうで、
このケースが解決した後に社会保険労務士と顧問契約を締結し、
労務管理の不備を解消するように動き出したそう。
法人の代表権を持っている以上、
経営者は自社に関係する法令を
「知らなかった」と言うことはできません。
私も家業の代表取締役を務めている最中に
食品衛生法と下請代金支払遅延等防止法に関連する不祥事を起こしてしまいました。
どちらの法律も存在は知っていましたが、
条文の内容や運用の実態までは把握していませんでした。
だからといって不祥事を起こしてしまったことには変わりはなく、
粛々と対応し、事態が拡大することをなんとか防ぎました。
経営者は事業を取り巻く全方位に目配りする必要があります。
繰り返す銀行手続きであっても内容を確認すべきだった
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となること(保証債務を負うこと)。企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済することを求められる(保証債務の履行を求められる)。
https://www.chusho.meti.go.jp/kinyu/keieihosyou/
中小企業庁「経営者保証」
私もこの経営者保証を求められ続けて、
会社が借り入れを行う度に印鑑証明書を用意し実印を押印、
連帯保証人になっていました。
定期的に発生する事務作業という感じだったので、
その都度、契約書を隅から隅まで確認することはありませんでした。
銀行担当者も口頭での説明はしてくれるものの、
いちいち契約書の読み合わせを実施することまではしません。
今にして思えば怖いことをしていたものです。
幸い、トラブルに巻き込まれることはありませんでしたし、
もちろん、意に反した署名・押印をしたこともありません。
また家業を投資ファンドに事業譲渡した際には、
保証債務の履行を求められることはなく自己破産もせずに済みました。
しかし、またもし金融機関と契約書を交わす機会があるのであれば、
あわててその場で署名・押印したりすることなく、
一呼吸置いて内容を精査してから署名・押印するようにしたいと思っています。
万一の事故を防ぐために。
代表者の署名・押印は文字通り、会社を代表するものです。
また経営者保証への対応も会社の命運を左右しかねません。
契約書への署名・押印の重みを十分に理解し、法人の代表権を持ちたいものです。
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