地方中小企業の経営者が印鑑を押す重み
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家業の代表取締役を務めていた5年間、
毎週のように実印を押印していました。
経営者の押印について考えてみます。
契約書を読み込んでいますか
店舗や事務所の建物賃貸借契約書、
従業員を採用する際の雇用契約書、
取引先との取引基本契約書など
地方中小企業を経営していると
様々な契約書が交わされることになります。
これら契約書の内容を
きちんと把握していない経営者が一定数います。
さらに、その契約書に押印している事実を
甘く見ている人もいます。
例えば店舗の建物賃貸借契約書の場合、
借り手が契約期間の途中で退居したいと考えたら、
「○か月以上前に書面により予告」し、
貸し手の「書面による承諾」が必要になることがあります。
※契約書の内容によって変わるのであくまで「例え」です
契約期間中の退居といった、
イレギュラーな事態も契約書には想定されているわけです。
店舗を出店し、万一の撤退条件を決める際には
当然、契約内容を考慮に入れて検討する必要があります。
また、契約書の内容を無視して、
大きな声で駄々をこねようとする人がいます。
押し通せば言い分が通るだろうという発想は、
会社の信用を損なうことに繋がりかねません。
何より紛争になった場合に、自分に不利益になるだけです。
法人として押印した事実は極めて重いのです。
契約書を取り交わし、
法人として押印したのであれば
内容を知らなかったと言って、済まされることはありません。
管理職任せにすることなく、
経営者もチェックする意識を持つようにしましょう。
労務関係の書類は要注意
雇用契約書の場合、
安易に過去からの契約書を流用していたり、
就業規則との整合性を考慮に入れていなかったりすると、
思わぬ労務トラブルを引き起こすことにもなりかねません。
どういった内容の雇用契約書を取り交わすかは
慎重に検討する必要があります。
労務トラブルは基本的に
会社が無傷で済むことはありません。
トラブルが発生してしまった時点で、
会社にとっては一定の損害が発生してしまうものです。
労働条件通知書
雇用契約書
就業規則
この3点の内容はそれぞれ整合していることを確認し、
経営者自らが内容を把握しておきましょう。
![印鑑と印鑑ケース](https://sr14th.com/wp-content/uploads/2023/01/24740946_s-300x200.jpg)
押印に失敗したことは一度もありません
経営者保証に必要な実印と印鑑証明書
私が家業の代表取締役を務めていた際、
金融機関からの借入には経営者保証をしていました。
経営者保証とは
中小企業が金融機関から融資を受ける際、経営者個人が会社の連帯保証人となること(保証債務を負うこと)。企業が倒産して融資の返済ができなくなった場合は、経営者個人が企業に代わって返済することを求められる(保証債務の履行を求められる)。
というものです。
経営者保証の書類に印鑑を求められた際、
金融機関の担当者に質問したことがあります。
「ほとんど資産のない私に経営者保証を求める意味は何ですか?」
と聞いてみたのです。
これに対して、
「いざという時(経営破綻時)に経営の責任を明確にするためです」
と答えてもらったことがあります。
経営者保証の書類は私の実印と印鑑証明書の添付が必須でした。
「十分な説明を受けずに押印してしまった」
「別の人間が勝手に押印したものだ」
とトラブルになることを防ぐためでしょう。
その後、家業を投資ファンドに事業譲渡し、
負債の残った旧会社を特別清算するに際して、
金融機関にも一定の負担をお願いしましたが、
経営者保証をしていた父と私は、
保証債務の履行を求められることはありませんでした。
実印を押印した時点で
最悪の事態になることも覚悟していましたが、
いざ、腹をくくって家業を畳んだ時には
金融機関から
「高幸社長に経営破綻の責任はないと認識している」
との意向が示されました。
経営者にとって、
印鑑を押すという行為は非常に重いものです。
日常の流れ作業で押印してしまいがちですが、
書類に潜むリスクを正しく認識し、
責任を自覚して押印するようにしましょう。
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